大迫にある花巻市総合文化財センターにて開催されている「城下の手仕事 花巻傘」の企画展にあわせて、花巻傘の職人である滝田工芸3代目 滝田信夫氏による製作体験講座と製作実演が開催されました。
7月27日に行われた「ミニ傘製作体験」、滝田工芸では2代目信吉氏が考案し、長年、インテリア品として親しまれてきたミニ傘でしたが、多くの方々から寄せられる「作ってみたい!」の声に、新しく体験メニューに仲間入りを果たしました。
なんと、このメニューは、今回の企画展関連イベントで初開催!まだ誰も体験したことのない「ミニ傘づくり」について、また8月17日に行われた製作実演を見学してきましたのでレポートいたします。
ミニ傘製作体験へ
講座開催日は、連日続く雨。大迫までの車窓には、雨粒が当たります。
普段なら雨の中のドライブはちょっと心配だなぁと思うのですが、講座に向かう気分は「傘づくりにはピッタリの雨だ」とウキウキ。
文化財センターに到着し、体験会場に入ると早速、カラフルな色合いが目に飛び込んできました。丸く切り抜かれていて、レコード盤のような大きさです。
受付を済ませて、まずはミニ傘に貼る和紙を選びます。カラフルな円盤は、傘に貼るための和紙でした。この日は、壁掛け傘定番の鹿踊りや七福神のイラストがプリントされた和紙や、せがわ京染店 瀬川卓哉氏が染めた成島和紙の中から選ぶことができました。
私は、出来上がったミニ傘をどこに飾ろうかな~と飾る部屋を思い浮かべながら選んでみましたよ。
和紙には裏表があるのですが、染めた和紙は、しみ込んだ裏面にもちがった色味が出るので、好きな方を表にして貼ることができます。
どちらも良い表情~(*^^*)
和紙を選んだら、席について講座開始を待ちます。
文化財センターの方のあいさつの後、滝田さんが登場し、さぁ、講座の開会です。
はじめに花巻傘の歴史、花巻とお隣の北上市口内が岩手の一大産地だったこと、洋傘の普及により廃業が相次ぎ、昭和36~38年ごろには、岩手県内で滝田工芸一軒のみになってしまったことなどをお話ししてくださいました。現在は東北地方全体で見ても、岩手に滝田工芸一軒、山形県に一軒あるのみだとか。
そこから、話は地域おこし協力隊の赤津有美氏にバトンタッチ。7月中、JR東日本の観光列車「陽旅(ひなび)」にて、花巻傘での車内装飾が行われたことが、受講しに来ていた赤津さんよりご紹介されました。
花巻傘の魅力が伝わってきたところで、早速製作に取り掛かります!
はじめに、ミニ傘の骨を開きます。このとき、傘部分がすべて平らになるところまで広げて、閉じないようにくさびで固定します。傘がおちょこにならないかドキドキしますが、恐れずにグッと力を入れて。
開いたら、台座の穴に傘の柄をさして立てて、作業を始めます。
次に、骨一本ずつにボンドをつけていきます。思っていたより骨の本数が多く、ついつい無言になってしまう作業。
つづいて、紙を貼ります。中心からズレないように気をつけて。
紙が貼れたら傘を裏返して、骨からはみ出したボンドを竹串で拭い取ります。
あまり強くこすると和紙に穴が開いてしまいそうだし、慎重にやっているとボンドがだんだんと乾いてきてしまうし、スピード勝負の作業。
傘を戻して、骨に沿って折り目をつけ、傘を閉じられるようにしていきます。
最後に頭に紙をかぶせて、紐で二ヶ所くくります。
さわやかな印象になるように、白のかぶせ紙を選びました。
完成しました~
今回は20名で開催された体験講座でしたが、今後は童話村隣にある滝田工芸の工房で1名からでも体験を受け入れていく、との嬉しいお知らせがありました。
講座を終え、一緒に受講された市民の方々にご感想を聞かせていただきました。
ご夫婦で参加されていた方は、「花巻に和傘の伝統工芸があることを知らなかった。ポスターの写真を見て、きれいだなと思い、興味を持ってきてみた。展示や職人さんのお話から、大変勉強になった。」と仰っていました。歳を取ってきたので、夫婦揃って楽しめることを探して色々出掛けてらっしゃるとのこと、素敵ですね。
小学生の双子のご兄妹とご両親でのご参加。お申し込みをされたお母さまは、「こういった、手で作られる工芸品が身近には無くなってきてしまっているので、本物の工芸に触れさせたかった。最近、キットなどは色々売っているが、実際に職人さんから教われる、お話が聞けるというのは大変貴重な経験になると思う。」と話してくださいました。
実際に製作した小学3年生の双子ちゃんからは、「むずかしいところはなかった。楽しくて面白かった!」とのご感想でした。
閉会前の質問タイムでは、実際の花巻傘の紙を貼る際の糊はどんなものを使うのか、傘の紙に塗る油の種類、油の乾かし方、一本の傘を作るのに、何日くらい掛かるのか、などなど、たくさんの質問が上がっていました。滝田さんはその一つ一つに丁寧に答えてくださり、もともと工芸がお好きだった方も、そうでなかった方にも、大変興味を持っていただいている印象でした。
やはり職人さんから直接教わり、お話できる機会って、特別な時間ですね。
製作実演の見学へ
ミニ傘製作体験からおよそ半月。今度はセミの大合唱に見守られ、再び文化財センターを訪れました。
製作体験を受けた会場は、並んでいた机は姿を消し、真ん中に畳の小あがりが設けられ、作業場をそのまま持ってきたような景色に。
76工程あると言われている傘づくりの、すべての工程をこなす職人として知られる滝田信夫さんですが、
傘づくりは、伝統的に、男性は竹を加工し骨づくり、女性はその骨を糸で繋いで傘の形にする繋ぎと紙張りと分業で行われていました。
滝田工芸でも紙張りは女性(滝田さんのお母様)が担っていたそうで、信夫さんが、最初で最後の、男性で紙張りを行う職人だということです。
「傘に紙を貼るときは、平らになるまで開いて貼るんですよ。よく時代劇とかで、紙張りのシーンが流れますが、平らに開いていないことがほとんど。あれじゃ、正しく貼れないんですね。」と、紙を貼る際の開き方を見せてくださいました。
ミニ傘づくりの時も同じ様に平らにして貼りましたが、まっすぐに開いた番傘は、なんだか普段見ているものよりもとても大きく見えました。
さて、いよいよ、紙張りの実演です。
まず、糊を刷毛で塗ります。糊は、タピオカのでんぷんと柿渋を混ぜたものだそう。プルンとして、とても粘りがあるように見えました。
続いて、紙を貼ります。和紙を四角いまま貼るとは知りませんでした。
カミソリで余分なところを切り落とします。刃を当てるだけで切れていっているような、なめらかな動き。とくに、傘の丸みにあわせてカーブに切るところは、まさに職人技!
一面貼り終えたところ。
次に、蛇の目の紙張り実演へ。
蛇の目も貼り終え、今回も、見学者からの様々な質問に答えてくださいました。
協力隊活動の中で、何度も滝田さんにお会いし、工房にも伺っておりましたが、実際に製作工程を見せていただくのは、今回が初めてでした。
いつもたくさんのお話をしてくださり、花巻傘製作のこと、販売のこと、お客さまとの逸話など、様々なことを教えてくださいますが、
傘の骨組みの前に座り、じっと視線を向ける姿には、いつもの柔らかい雰囲気とは違う、ピリッとした空気がありました。
「皆さんに見られて緊張しますよ~」と仰いながらも、喋りながらの作業でも迷いなく動く手に、職人として積み重ねてきた年月の重みを感じました。
今回、文化財センターで行われた企画展「城下の手仕事 花巻傘」の2つの関連イベントに伺い、今までよりも一歩踏み込んで花巻傘に触れることができ、その魅力の新たな側面を体感することができました。
今度はぜひ、雨の中での使用体験も経験してみたいと思います!