まきまき花巻味わいたい花巻の野菜やお肉、果物で「銀河鉄道の夜」をめぐります(「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」2020・東京開催報告)
花巻の野菜やお肉、果物で「銀河鉄道の夜」をめぐります(「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」2020・東京開催報告)
100 まき
このエントリーをはてなブックマークに追加

 「花巻の農と食」×「宮沢賢治の童話世界」を紹介するエッセイ「宮沢賢治の花巻レストラン」がきっかけで誕生した、『花巻の食材で童話を食べる「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」』(企画・花巻市)。2020年2月7日(金)から13日(木)の期間限定で「開店」しました。

 期間中は花巻の野菜やお肉、果物が小岩井の食材とコラボし、お皿の上に「銀河鉄道の夜」を描いた1週間になりました。連日たくさんの方にお越しいただき、おかげさまで盛況のうちに終了しました。

■花巻の野菜やお肉、果物が「銀河鉄道の夜」を語ります


 今回の「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」は、昨年(2019年2月)大好評だった花巻市と小岩井農場コラボ企画第2弾です。主催は花巻市農政課と小岩井ファームダイニング。場所は東京・丸の内の小岩井農場直営レストラン“小岩井農場TOKYO”です。私、中野は前回に続いてメニュー監修という立場で関わらせていただきました。
 

 前回は16の賢治童話をテーマに、26のメニューで花巻の農畜産物を味わっていただきましたが、今回は賢治の作品の中でもよく読まれている「銀河鉄道の夜」をテーマにしました。1つの作品世界をメニュー全体で伝え、賢治の作品世界の楽しさと、花巻の野菜やお肉のおいしさをより楽しみ、味わっていただこうという試みです。
 

「銀河鉄道の夜」の物語世界をモチーフに小岩井農場TOKYOの加藤総料理長が作り上げたのは22のメニュー。そしてコース料理、パーティメニューです。それから花巻産のトマトジュース、シードル、ワインもドリンクメニューに加わりました。小岩井農場の食材ともコラボしながら、お料理、デザート、ドリンクすべてで花巻の食材が味わえるメニューになりました。

■特別な1週間のために


 小岩井農場TOKYOの加藤シェフ と私がメニュー相談をはじめたのは昨年の秋からでした。「銀河鉄道の夜」の印象に残ることばや場面などを切り取り、登場人物が何かを食べているシーンからは食感を想像し、物語全体から花巻の食材の使い方、小岩井の食材との組み合わせなどを詰めていきました。
 私は、監修という立場で迷ったり考え込んだときは「銀河鉄道の夜」を読み返すことにしていたのですが、するとあらためて賢治の描く銀河の世界は、明るくてカラフルだと感じました。そんな印象も食材やお料理のアイデアへつながりました。例えば「青白く光る銀河の岸」「野原中の青や橙や、いろいろかがやく三角標」「がらんとした桔梗色の空」など、ことばが色彩を放っていると思いませんか。
 時には私からシェフへ「メニュー数はおまかせしますから、デザートすべてに花巻のリンゴをつかってほしいです」という無茶ぶり(?)も。すると総料理長からは8種類のデザートメニューの提案が返ってきたのでした。こういった総料理長とのやりとりも昨年に続いて2回目だったからできたことです。
 また今回は、お客様に花巻の食材を身近に感じてもらえるように、そして賢治の物語世界をより楽しんでもらえるに、農政課の担当者の方とだしあったアイデアもパワーアップ。
 店内の壁一面には、主人公ジョバンニが銀河鉄道に乗り込むシーンの一節を入れたイギリス海岸の夜景写真の装飾を施しました(ちなみに前回は、花巻の雪野原の風景写真と「雪わたり」の一節を施し、それも好評でした)。

銀河ステーション 銀河ステーション/気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗ってゐる小さな列車が走りつづけてゐたのでした。

賢治作品の絵本と花巻の食材や観光の情報が読めるコーナーをつくりました。

花巻産のドリンクには特製コースター。そして花巻食材、メニュー、物語のシーンを紹介した冊子と案内資料(持ち帰り可)を作り、各テーブルに置きました。

■「銀河鉄道の夜」をめしあがれ

 花巻市出身の宮沢賢治(1896-1933年)作品「銀河鉄道の夜」は、 賢治の没後、世間に発表された作品です。その原稿は何度も手を入れ、書き直されています。現在私たちが読むことのできる単行本や絵本の中にも、書き直す途中の原稿をテキストにしているものもあり、本によって登場人物やストーリーが少々異なっていることがあります。
 今回、テキストに使用したのは『新校本 宮沢賢治全集 第11巻 本文篇』(筑摩書房)。この本に掲載されている 「最終形」と呼ばれる「銀河鉄道の夜」です。

 この記事ではその9つの章に分かれている物語に沿ってメニュー紹介をします。

■「午后の授業のスープ / 花巻産・菊芋のポタージュ」

「一、午后の授業」。学校の教室でジョバンニは銀河について話を聞いています。
 「このぼんやりと白いもの」を花巻・夢農業新屋農園の昆さんの菊芋を使ったポタージュスープで表現しました。のどごしに菊芋の風味を感じる見た目も食感もほっこりするスープです。
 そして花巻・プロ農夢花巻の雑穀は、天の川の模型の中で光る星たちに見立てた「天の川の雑穀サラダ / 花巻産・雑穀とサラダメランジェ 小岩井牛のコンビーフ入りサラダ仕立て」になりました。

「ではみなさんは、そういうふうに川だと云いわれたり、
乳の流れたあとだと云われたりしていた
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」

■トマトで何かこしらえたもの /「黄いろのトマトのミネストローネ」 と「黄いろのトマトのムースと生ハム」


「二、活版所」のジョバンニがアルバイトをしていた活版所の活字の入った箱のイメージで「活版所の活字 / 小岩井農場産チーズ・ハロウミの焼きカプレーゼ」ができました。
 そして「三、家」でジョバンニがパンと一緒に「むしゃむしゃ」と味わっている「トマトで何かこしらえたもの」をモチーフに2品のトマト料理ができました。
 写真で紹介しているのは、ミネストローネスープです。花巻・ネクスファームの黄いろのトマトのトマトジュースが使われています。具材には花巻・大迫チーズ生産者組合のモッツァレラチーズ早池峰醍醐と、花巻の野菜がたっぷりはいって「むしゃむしゃ」と味わえます。

「・・・姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
ジョバンニは窓のところからトマトの皿をとって
パンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。

■「ケンタウル祭のごちそう / 八幡平サーモンのムニエル 花巻産ハチミツのハニーマスタードソース 花巻野菜添え」

 「四、ケンタウル祭の夜」では、銀河のお祭り・ケンタウル祭の夜のまちの様子が描かれています。そんな日のごちそうがイメージです。銀河鉄道の沿線に泳いでいる鮭をモチーフに、ほどよく脂ののった上質な八幡平サーモンを使いました。
 野菜は、花巻・照井健二さんの雪の下ニンジンとキャベツ、ファームプラスの大根。
花巻・たかはし養蜂所のハチミツをベースにしたキラキラのソースをまとって、鮭は銀河を泳ぎます。


子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、
星めぐりの口笛くちぶえを吹ふいたり、
「ケンタウルス、露(つゆ)をふらせ。」と叫んで走ったり、


■「烏瓜(からすうり)のあかり / 小岩井農場たまごを使ったスコッチエッグ 花巻野菜を添えて 」


「五、天気輪の柱」の一場面で、夜の川に流す烏瓜のあかり様子をスコッチエッグで表現しました。
スコッチエッグを半分に切ると、中から小岩井農場たまごが。そして花巻の雪の下ニンジンとキャベツがごろっと味わえます。


六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、
めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。


【花巻のお米】
 期間中提供されたのは「みずほ米」。これは岩手県オリジナル品種「銀河のしずく」で、花巻の万丁目地域の、より一層美味しいお米ができる希少で豊潤な田んぼのみで栽培されたお米です。環境に配慮し特別栽培基準よりもさらに厳しい基準で栽培されています。


■「黒曜石の星座盤 / 花巻の雑穀をつかったイカスミリゾット 花巻の野菜とともに」


「六、銀河ステーション」でジョバンニが時計屋で見た黒曜石(こくようせき)の星座盤(せいざばん)と、カムパネルラがもっていた銀河の地図のイメージをモチーフにした黒いリゾットです。花巻の大根と雪の下にんじんで作られた星々がアクセントになっています。

「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」
ジョバンニが云いました。
「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」


■「天の野原のリンドウ / 花巻・石黒農場ほろほろ鳥のソテー 花巻ブルーベリーのソース 小岩井農場ポテト」


 天の川を飛ぶ鳥たち、咲くリンドウの花…銀河鉄道沿線の天(てん) の野原の風景を花巻のほろほろ鳥とブルーベリーソースで描きました。お皿の上にリンドウ色が広がる素敵なお料理でした。

「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」
カムパネルラが、窓の外を指さして云いました。


■「花巻黒ぶだう牛サーロインステーキ プリオシン海岸風 / 花巻のブランド牛のステーキをクルミのソースで 花巻の野菜を添えて」

  「七、北十字とプリオシン海岸」でジョバンニとカムパネルラが出かけたプリオシン海岸。二人はそこでクルミの化石を拾い、牛の祖先の化石発掘現場を見学します。そんなイメージの「プリオシン海岸風」です。花巻黒ぶだう牛はワインの搾りかすをえさに混ぜて生産されたブランド牛です。花巻産クルミは「和クルミ」。一般的な輸入のクルミより小粒で、味が深く、きめ細かい食感です。


くるみが沢山あったろう。それはまあ、ざっと百二十万年ぐらい前のくるみだよ。
ごく新らしい方さ。


■「イーハトーブのお肉3種盛り / 花巻黒ぶだう牛・白金豚・ほろほろ鳥 花巻の野菜とご一緒に」


 牛・豚・鶏・・・いろんなお肉を味わえるのも花巻の魅力です。しかし花巻のブランド肉を一度に味わえる機会は地元でもまだ少ないのです。それに加えて花巻の野菜も一緒に味わえるという、なんとも心躍る一皿。
お肉が盛り付けられているお皿は、小岩井農場のクルミの木を加工したもの。物語の中のプリオシン海岸の「気配」がありました。


■「銀河のほとりの双子の星 / 八幡平サーモンのソテー 花巻・雪の下ニンジンのソース 小岩井農場ポテト添え」


「八、鳥を捕とる人」の双子の星のシーンを八幡平サーモンのソテーと小岩井ポテトで。そして輝く銀河を花巻雪の下ニンジンで作ったソースであらわしています。
ふわっと甘くニンジンが香るカラフルな銀河です。


■「ジョバンニのポケット / 白金豚ベーコンの入ったオムレツ」


 「九、ジョバンニの切符」でジョバンニのポケットからあらわれたのは「どこへでも行ける切符」でした。ふっくらオムレツの「ポケット」の中からは、とろ~り小岩井卵と、白金豚のベーコン。


ジョバンニは、すっかりあわててしまって、 
もしか上着のポケットにでも、入っていたかとおもいながら、手を入れて見ましたら、
何か大きな畳たたんだ紙きれにあたりました。


■「そらの孔、石炭袋 / 白金豚ロースのゴマ焼き花巻ホウレンソウを添えて」

白金豚と花巻のホウレンソウのお料理は、まさに見た目がそらの孔(あな)。銀河に浮かぶ真っ黒な石炭袋です。「白金(プラチナ)」でできた「石炭」(想像するだけですごいですね)の表面を覆っているのは黒ゴマです。そのカリカリとした食感が、白金豚の旨みとコラボし香ばしさが溢れました。花巻のホウレンソウは味も見た目もつけあわせを超えた存在感。


【ドリンクも花巻】
花巻産が勢ぞろいしました。
・エーデルワイン 早池峰神楽(はやちねかぐら)岩手県産ぶどう100%
・花巻リンゴ100%の「花巻産りんごのシードル(ノンアルコール)
・黄いろのトマトジュース(花巻のミニトマト100%)


■「銀河鉄道の夜」花巻のリンゴが香る8つのカフェメニュー

「いかがですか。こういう苹果(りんご)はおはじめてでしょう。」


8品のデザートメニュー全てに花巻の宇都宮果樹園のリンゴが使われました。メニューの中には、リンゴと一緒に花巻のイチゴとブルーベリーも味わえるものも。まるで銀河鉄道の列車の中で銀河の不思議なリンゴの香りが漂っていたように、それぞれのお皿の上の花巻のリンゴやイチゴ、ブルーベリーがいろいろな表情をしています。


★デザートプレート / 銀河鉄道食堂車の特製デザート


★リンゴの彗星(ほうきぼし) /花巻のリンゴ入り まきばのミルクソルベ


★蠍(さそり)の火 / 小岩井カスタードバニラアイスクリーム 花巻のリンゴ・イチゴを添えて

★鳥捕りのくれたお菓子(上) / 小岩井シュークリームと花巻のリンゴで作ったお菓子
★サウザンクロスの白い渚(左) / 小岩井ミルク感じるプリン 花巻のリンゴのコンポート
★銀河の河原の小石たち(右) / 小岩井農場たまご感じるプリン 花巻のリンゴとシードル

★こがね色の草穂(さほ) / 小岩井農場直送のベイクドチーズケーキ 花巻のリンゴ・イチゴを添えて


★ケンタウルの露 / 小岩井農場ソフトクリーム 花巻のリンゴ・イチゴ・ブルーベリーを添えて


■賢治×花巻の農・食トーク&朗読を開催


 2020年2月8日(土)には同会場で花巻の農・食と賢治の作品世界を紹介するイベントを開催しました。
私は賢治と花巻の農をテーマに、花巻で出会った生産者の方のこと、野菜やお肉のことなどをお話しさせていただきました。賢治や賢治の作品世界が、花巻の食や農につながっていることがお伝えできていたら、そして賢治の作品と親しむきっかけになったら幸いです。


 朗読は「ものがたりグループ☆ポランの会」。会から代表の彩木香里さんと石神哲朗さん、小寺麻未さん、鈴木太二さん、山本将弘さんの5人がお越しになり『注文の多い料理店』序、「銀河鉄道の夜」を朗読してくださいました。
朗読がはじまると、目の前にポランの会のメンバーの方たちの声に乗り、賢治のことばの世界があらわれます。まるで会場全部が銀河鉄道の車内にいるような雰囲気。そこにいる全員が銀河鉄道の乗客になったひとときでした。
朗読のあとには今回のイベント特製デザートが登場。
「花巻リンゴジュースの炭酸割り」


「鳥捕りのくれたお菓子」


ことばと声、そして特製デザートという、今ここでしか味わえないごちそうを参加者全員で味わえたイベントになりました。
〇ものがたりグループ☆ポランの会 web


■全部が「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」

 「花巻の農と食」×「宮沢賢治の童話世界」が食べられる「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」。それは単に食材を味わうだけではなく、お料理や朗読から飛び出してきた物語世界の楽しさや、ことばの力が味わえるところです。今回は、小岩井農場TOKYOの総料理長とスタッフのみなさんが作り上げたメニューとサーヴィス。そして召し上がってくださるお客様・・・「銀河鉄道の夜」の物語世界、人、食べもの、それぞれが出会い、 つながって生まれたレストランでした。
 私自身、今回「銀河鉄道の夜」を何度も読み返し、そしてお料理から花巻の食材に思いをはせることで、その銀河の世界から見えてきたのは、花巻で見る農の風景でした。
やっぱり賢治のことばの中にはたくさんの花巻の食と農の風景が詰まっているんです。
それを確かめに、花巻で賢治の世界と花巻の農の風景、そして野菜やお肉、果物などおいしいものを見つけ味わっていただけますように。
 これからも、花巻の豊かな食材の応援をよろしくお願いします。


=開催データ=
◆宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン(2020・東京開催)
〇開催期間: 2020年2月7日(金)から2月13日(木)
〇場所:小岩井農場TOKYO(丸ビル5階)     
〇主催:花巻市 小岩井ファームダイニング

■今回のメニューに使用した花巻の食材と生産者のご紹介(順不同)
【イチゴ】斎藤靖子さん instagram
【リンゴ】宇津宮果樹園 web
【ブルーベリー】鈴木久美子さん 
【菊芋】夢農業新屋農園   
【雑穀】プロ農夢花巻 web
【米・岩手県オリジナル品種「銀河のしずく」】(農)みずほ web
【花巻はちみつ】たかはし養蜂所(クリエイト新興)web
【雪の下ニンジン・キャベツ】照井健二さん 
【黄いろのトマト】NCXX FARM ネクスファーム web
【大根】ファームプラス web
【ノンアルコールシードル】社会福祉法人 悠和会 銀河の里 web
【ワイン】エーデルワイン web
【チーズ・早池峰醍醐】大迫チーズ生産組合 伊藤行雄さん 
【白金豚・プラチナポーク】高源精麦株式会社 web
【ほろほろ鳥】石黒農場 web
【花巻黒ぶだう牛】花巻黒ぶ だう牛研究会

◆エッセイ「宮沢賢治の花巻レストラン」(まきまき花巻に掲載)
今回使用した食材や生産者も紹介しています。こちらは24時間開店中です。
「畑の恵み、町の食卓(前編)」賢治と花巻について
「畑の恵み、町の食卓(後編)」黄色のトマト
「野原と畑の晩餐会」白金豚・花巻黒ぶだう牛・チーズ
「五穀豊穣のよろこび」雑穀
「野原の菓子屋のとっておき」リンゴ
「山猫軒のおもてなし」菊芋・リンドウ(花巻ブルー)

◆東京開催の詳細はこちら
「銀河鉄道の夜」を食べよう♪」

「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」公式Facebookでは最新情報など更新しています 


*** *** *** *** *** *** *** *** ***

■レポートを仕上げた後の「いただきます」


 この東京での催しが終わったあと、2020年2月後半あたりから日本では新型コロナウイルスによる影響で、あらゆることが思うようにならない時間が流れはじめました。そして「3密」「ソーシャルディスタンス」「新しい生活様式」といったことばが私たちの日常にあっというまに居座ってしまいました。
 ご存じの通り、4/16に緊急事態宣言が全国に出されて以降、生産者や飲食店の方々をはじめ、食を作り支えている全国の現場で大変な状況になりました。
 一方で、一人ひとりのくらしの中では、料理に挑戦したり、家族で食事をする時間がうまれたり、食べものが運んでくれる明るい話題も増えました。家で過ごす時間が増えたことで、今、食べているものがどこからきたのか、どんな状況になっているのかといった、食や農のニュースに触れる機会になった方も多いのではないでしょうか。
私がくらしている兵庫県では4/7に緊急事態宣言が出て以降、まちを歩く人や店の様子、国道を走る車の量など、日常の気配が変わりました。そんな中で「こんなことやりました」というレポートを仕上げることに正直構えてしまいました。けれどもどんな中でも花巻のこと、そして宮沢賢治のことばの中の食や農の風景のことを考えるのは「ああ、いいなあ」と心地が良いのです。うまく言えませんが、かしこまらず、この気持ちを伝えたらいいんだと頭を切り替えました。
 新型コロナウイルスによる影響がもたらしたものは様々ですが、人と人がなかなかつながれない、集えない中で、食や農が一人ひとりにつないでくれるもの、運んでくれるもの、力になってくれるものが確かにあると感じています。
 このレポートのどこかで「ああ、いいなあ」が伝わっていたらありがたいです。
 そして料理人のみなさんへ、生産者のみなさんへ思いをよせていただけますように。
 長い長いレポートを最後まで読んでいただきありがとうございました。


 「宮沢賢治のイーハトーブ花巻レストラン」は、結構きまぐれです。
 ある日こっそり開店することもあるかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。またどこかでお会いしましょう。

私が書きました
中野由貴

花巻と宮沢賢治ファンの料理研究家
絵本・童話・食・宮沢賢治をテーマに創作、研究、執筆などを行っています。
著書に『宮澤賢治のレストラン』『宮澤賢治お菓子な国』(平凡社)、『にっぽんたねとりハンドブック』(共著・現代書館)ほか。
宮沢賢治学会会員、希望郷いわて文化大使。兵庫県在住。
花巻市民ではありませんが、イーハトーブ花巻出張所@兵庫(勝手に命名)から参加させていただきます。どうぞよろしくお願いします。