まきまき花巻行きたい古くて新しいまちのオアシス
古くて新しいまちのオアシス
120 まき
このエントリーをはてなブックマークに追加

昔お城があった高台にある花巻市役所前から、市街地へ降りていく古道が通称ひゃっこ坂。古地図にも記載されているので、恐らく登城する侍たちもそう呼んでいたのだろうと思わせる、路地のような狭い坂道だ。

その途中に立派な塀で囲まれた緑屋根の古民家がある。かつては花巻を代表する大店のひとつだった大津屋さんという呉服店の離れとなっていた建物だ。大津屋さんは今の上町駐車場の場所にあったから、そこからここまで大津屋さんの土地だったということになる。昭和のはじめごろ、大津屋さんのご隠居がすんでいたらしいが、そこに宮沢賢治さんが時々訪れ、庭の作り方にいろいろとアドバイスを送ったとのこと。

そんな由緒ある建物を購入し、自費で修繕した上でカフェとマッサージの店「茶寮かだん」さんを2016年9月に開店させたのが一ノ倉俊哉さんご夫妻だ。

「できるだけ元の造作を残せるように修繕したつもりですが、今はもう作れないような伝統的技能で作られた建具やガラスなどがあり、結構苦労しました」

奥にマッサージを行う新しい部屋は増築したものの、元からあった部屋はできるだけ復元したという。美しい組子と呼ばれる障子戸や彫刻の欄間。書院棚に大きな床の間。飾りガラスの戸に使われているのは昔ながらの歪んだガラスだ。個人的に一番興味を引いたのは、玄関を入った上がり框にある第二の扉。古い建物が好きで、これまでいろいろ見てきたが、これは初めて見た。北国ならではの寒さ対策のためだろうか、これまた洒落たデザイン。

縁側で庭を眺めながらランチやお茶をいただくこともできるし、座敷や、レトロな雰囲気の洋室も魅力ある場所。神棚がある部屋には炉が切られているように見えるが、実はここはお茶用の炉ではなく、掘りごたつになっているとのこと。賢治ゆかりの庭も魅力的だが(庭だけの散策もOKとのこと)、廊下から見える小さな箱庭も風情がある。ほっと一息つける静かな場所だが、あまりにも心地よくて、ついつい長居してしまう場所でもある。

一ノ倉さんがここを買い取って一般に公開したのは「市街地があまりにも寂しいので、まちの拠点となる場所が必要だと思ったから」とのこと。「商売というより、ゆっくりこの雰囲気を楽しんでほしいですね」と話す。確かにまち散歩の拠点になる場所だ。

今は人手不足でお休みしているようだが、営業時間外の夜もなにかしらのイベントや会合にも利用してもらえればと考えているとのこと。これまでにも古いお雛様や裂き織り、クラフトなどの展示会、寄席などを開催してきた。今後は和楽器によるライブなどもできそうだ。

ところで、もちろん日替わりのランチもリーズナブルで美味しい。今の時期なら東和町小山田の棚田で採れた新米が食べられる。香ばしく、もちもちしていて、おかずがいらなくなるほど。

マルカンをはじめとする「まち」からぶらりとここまで散歩するにはちょうどいい。これからの寒い時期にも、上町商店街ならアーケードがあるので足元が気にならない。古くて新しいまちのオアシスだ。

私が書きました
北山 公路

出版プロデュース、企画・編集のフリーランス。
花巻に生まれ育ち、今も花巻在住。東京の出版社の仕事と地元の仕事半々を花巻でこなす。2017年春から「花巻まち散歩マガジン Machicoco」を創刊し、隔月発行継続中。