花巻に限らず、岩手で秋の味覚の定番といえば「芋の子汁」。
基本は鶏肉を使ったしょうゆ味で、ダイコンやニンジン、ネギに豆腐を入れ、キノコでダシを取る。芋の子(里芋)は北上市二子のものがブランドで、柔らかくねっとりとした粘りがウリ。噛まなくても溶けるので食べやすい。ダシを取るキノコは、シメジで代用することもあるが、一番合うのは地元でボリと呼ばれるナラタケ。よくダシも出、香りも楽しめる。シメジほど歯ごたえが無いので、二子の芋の子との相性はバッチリ。芋の子はもとより、ボリを使うために秋の料理となっている。
地元では他におかずがなくても、芋の子汁とご飯だけでりっぱな食事になる。大鍋で作り、何杯でもおかわりして食べられる。酒席でも日本酒にぴったり。鶏肉&しょうゆ味のほかに、豚肉を使った味噌味もあるが、豚汁の中にキノコと芋の子を入れたものと考えて良い。この場合は味噌の旨味で食べられることが多いので、ボリよりもシメジの方が合うかもしれない。
秋になると、山形で知られる芋煮会のように、川原などに大人数が集まってその場で作りみんなで食べる「芋の子会」がよく開催されるが、「芋の子汁」と「芋煮」とは大きく違う。芋煮の場合は牛肉が使われるという材料の違いもあるが、実は根本的に料理のジャンルそのものが違うことに、山形へ行った時に気づいた。山形で供される「芋煮定食」には、芋煮のほかになんと味噌汁が付いてくるのだ。どうやら「芋煮=鍋物」というくくりらしい。芋の子汁はその名の通り「汁物」なので、定食になったとしても味噌汁が付いてくることはあり得ない。同じ里芋を使い、材料も似たような料理で、集まって食べたりする文化も似ているのに、そもそものジャンルが違うというのは面白いと思う。
普通は各家庭によって作り方が少しづつ違う家庭料理だが、まちの食堂、居酒屋やホテルの会席料理などでも秋になると出てくることが多い。そんな時は芋の子汁に歓声が上がる。
芋の子汁と少し似た郷土料理にひっつみ(ひっつみ汁)がある。味付けはやはり鶏肉を使ったしょうゆ汁だが、小麦粉を団子にし、手でちぎって入れるから「ひっつみ」。要は水団の仲間なのだろうが、団子の薄さが水団とはちょっと違う気がする。具は芋の子汁とほぼ同じだが、豆腐は入れない。芋の子や豆腐のかわりにひっつみが入っていると考えてもらえば当たらずとも遠からず。汁の旨味とひっつみのモチモチした食感がこの料理の特徴だ。季節問わず食べられるようだが、やはりキノコでダシを取りたいので秋の料理といえるだろう。
肌寒さを感じ始める10月も半ばを過ぎると、熱い芋の子汁やひっつみが嬉しい。