10月のすがすがしい空の下、花巻市若葉町の梨の木がある場所で毎年恒例の収穫祭が行われました。
ここは宮沢賢治さんが農学校の先生をされていた頃に、果樹園の実習が行われていた場所。賢治さんの母方の祖父・善治さんが、「これからの時代は果樹栽培の技術を向上させるためにもっと果樹園が必要なんです!」という賢治さんの説得に土地を無償で貸してくださったのが始まりです。
賢治さんが、花巻のひとたちの未来の為に試行錯誤をされていた農学校の先生時代のエピソードやそれを語る作品は数多く、賢治さん好きの目線としてもここは外せないスポットと言えます。
収穫祭が始まったのは、16年ほど前。その当時、賢治さんの植えた梨の木の実は小さいものしか出来なかったといいます。「梨はそのままにしていても実はできるが、人の手をかけることでより大きく育つ」と、梨の木を管理してくださっているボランティアのおひとり、菅原さんは語ります。町の大切な「賢治先生の植えた梨の木」を守って行こうと立ち上がったそうです。
花巻の方は、宮沢賢治さんを「賢治先生」と呼んでいます。農学校の先生というイメージからとも言えますが、花巻の農業の発展のために力を尽くされた、という賢治さんの生き様が強いのではと感じました。
梨の木の管理のボランティア代表の照井長治さんは、賢治さんと同じ現在の花巻農業高等学校の卒業生です。梨の木の管理についてボランティアのみなさんにご指導をしてこられました。ボランティアの方は37人ほど。梨の木の管理を通じて会話をし、コミュニケーションをとることが良い効果をもたらしていると話されていました。メンバーの方同士、葉書のやりとりで連絡を取り合っています。メールですぐに連絡を取り合えることが当たり前になってきた中、手書きでお気持ちを伝えあうことが強い信頼と絆でつながっているのですね。
賢治さんも生前沢山のお葉書を書いていました。
ここにある梨の品種は「真鍮」という比較的古いもので、現在流通している品種のご先祖様にあたります。真鍮は五円玉の材料なので、その色をイメージすると分かりやすいかもしれません。しかし、賢治さんの童話「やまなし」に登場する梨はこの真鍮とは別の品種です。諸説あるようですが、岩手地方で「イワテヤマナシ」とも呼ばれているミチノクナシだと言われています。大きさは2cm~3cmとかなり小ぶりですが、褐色に熟すと食べられます。
今年も収穫祭のメインイベントとして、若葉保育園と西公園保育園の子どもたちが梨の収穫を体験しました。まずは「星めぐりのうた」、「風の又三郎」、「花巻市民の歌」を一生懸命合唱してくださいました。参加された方々にまじって賢治さんが目を細めて笑っている姿を想像して、心が温かくなりました。
続く梨の収穫も、脚立にのぼって小さな手を精一杯のばしてひとりひとり頑張っていました。満面の笑みで初めて梨を収穫した子どもは何を感じていたのでしょうか。何よりそんな子どもたちを見守る大人たちの笑顔が本当に嬉しそうでした。子どもたちをはじめ、参加した全員が今年も収穫祭を幸せな思い出として心に刻むことができたのではないでしょうか。