まきまき花巻参加したい風の又三郎を追いかけて〜大迫・猫山トレッキングツアー〜
風の又三郎を追いかけて〜大迫・猫山トレッキングツアー〜
12 まき
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私は花巻の大迫に暮らしながら、
「今日は風が強いなぁ。又三郎がかけまわってるな。」と思うことがよくあります。

「風の又三郎」は、花巻出身の作家・宮沢賢治が生み出した代表作のひとつで、
ある谷川の岸の小さな小学校に、高田三郎という少年が転校して来るところから始まります。

どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう

(宮沢賢治・著「風の又三郎」より引用)


この風の表現、素晴らしいと思いませんか?

私は賢治作品の独特のオノマトペが大好きです。
童話「風の又三郎」でも、風の表現が生き生きと書かれています。

 

物語のなかで、ある日山の上の牧草地で馬追いをやろうということになったとき、ひとりの少年が馬を逃してしまい探しながら気を失ってしまいます。その時、風の又三郎の夢を見るのです。


 

そんなことはみんなどこかの遠いできごとのようでした。もう又三郎がすぐ目の前に足を投げだしてだまって空を見あげているのです。いつかいつものねずみいろの上着の上にガラスのマントを着ているのです。それから光るガラスの靴をはいているのです。又三郎の肩には栗の木の影が青く落ちています。又三郎の影は、また青く草に落ちています。そして風がどんどんどんどん吹いているのです。又三郎は笑いもしなければ物も言いません。ただ小さなくちびるを強そうにきっと結んだまま黙ってそらを見ています。いきなり又三郎はひらっとそらへ飛びあがりました。ガラスのマントがギラギラ光りました。

(「風の又三郎」より引用)

 

 

賢治作品の世界を感じる大迫の自然

 

花巻市大迫町には、賢治作品のモデルになったのではないかと言われている場所がいくつかあることをご存知でしょうか?
そのひとつが、今回ご紹介する「猫山」です。

2021年5月、毎年初夏と秋に開催される「宮沢賢治足跡トレッキングツアー」に参加してきました。
旭の又(火の又)小学校跡、猫山、モリブデン鉱跡を見学する予定でした。しかしあいにくの天気で、今にも雨が降りそうな曇り空。山の上には霧がかかっています。

猫山の名前を初めて聞いたときに、「賢治さんっぽいなぁ」とワクワクしたことを思い出します。猫といっても私が思い浮かべたのは“山猫”。「どんぐりと山猫」?「注文の多い料理店」?…と考えていましたら、「風の又三郎」の舞台らしい場所であるとのことでした。

 

花巻市大迫町外川目地区の、合石集落と堅沢集落に登山口を持ちます。標高は920m。猫山は根子山とも言われ、「稗貫氏の重臣であった根子氏(花巻の上根子、中根子、下根子一帯を支配)が、天正の頃没落してここに隠遁したことから根子山という名称がついた」、「平泉藤原時代の貴族であった猫間中納言が居住したので猫山と呼ぶ」など、名称の由来は諸説ある。

(「賢治さんと歩く 小さな森の物語」引用)

 

作品の舞台となったのは、とある谷川の岸の小さな小学校。
賢治さんが考えた架空の小学校かもしれません。しかし、賢治さんが生前教鞭をとっていた頃の教え子の方が、「賢治先生は、旭の又を舞台にした物語の構想を話してくれた」と口にしていたといいます。旭の又とは、外川目にある集落です。かつての「火ノ又(旭の又)文教場」は、その後、旭の又小学校になり、廃校となった校舎は現在、旭の又集落の集会所に使用されています。テニスコートぐらいの校庭という描写がありますが、だいたいそのくらいかなぁと感じるスペースが建物の前にありました。

▲2019年5月に撮影

 

旭の又小学校跡の向かいには、確かに小さな川が流れていました。谷川というと童話「やまなし」も彷彿とさせますね。沢蟹がいないかなぁと探したくなります。本当にここらを散歩していると、どこかで賢治さんの気配がするような気がするから不思議です。

 

 

ちなみに私、「風の又三郎」は知っていましたが、その前身と言われている「風野又三郎」という作品があることは、花巻に移住してから初めて知りました。自分の持っている「宮沢賢治全集」(ちくま文庫)を確認したら、全集の5冊目にちゃあんと載っていました。始まりはほとんど同じなのですが、ここに出てくる又三郎はどうやら子どもたちだけに見える「風の神様」のことらしいのでした。

ぜんたいその形からが実におかしいのでした。変てこな鼠いろのマントを着て水晶かガラスか、とにかくきれいなすきとおった沓をはいていました。それに顔と云ったら、まるで熟した苹果のよう殊に眼はまん円でまっくろなのでした。

(「風野又三郎」より抜粋)

ぜんたいその形からが実におかしいのでした。変てこなねずみいろのだぶだぶの上着を着て、白い半ずぼんをはいて、それに赤い革の半靴をはいていたのです。それに顔といったらまるで熟したりんごのよう、ことに目はまん丸でまっくろなのでした。

(「風の又三郎」より抜粋)

ということで、私なりに考えて描いた「風の又三郎」がこちら。小学生の頃、賢治作品の「やまなし」の絵を書きましたが、それぞれの個性で又三郎を描いてみるのも面白そうですね。友人が描いた又三郎も頼み込んで載せさせてもらいました。

 

猫山でのフィールドワーク

 

 

山の中は霧が立ち込め、カラマツ林は幻想的な雰囲気。
賢治さんは早池峰山に登っていた時に、「つめたいゼラチンの霧もあるし」という表現をしています。
このあたりは、シカやクマなど野生動物の生息地にもなっています。特に今の時期は子どもを連れたクマも多いため、単独での行動は危険なんですね。
午後からの天気が崩れてくる予報が出ていた為、「覗石」までは車で向かいました。

 

 

覗石は、高さ3.7メートル・周囲21メートルもある巨岩です。
猫山は奇岩・巨石の多い花崗岩の山で、ここに来るまでも沢山の大きな岩を目にしました。中でも存在感のある覗石。雨で岩が濡れていたので、上に立っての写真撮影はできませんでした。以前撮った写真はこんな感じ↓

 

 

ここから頂上まで1時間弱歩きます。本当なら登山口から歩いてきますので、ばてている方もいそうですが、今日は車でここまできましたので、頂上に向かって元気いっぱいに歩き出します。ここ何日か雨が続いた為、道もぬかるんでいました。長靴で来て大正解(´∀`*)しばらく進んでいくと、平らな地形が現れます。

 

 

足元を見てみると、わらびがたくさん!!ヽ(´▽`)/
山菜の季節ですね〜。しかし、このあたりにはシカやクマも生息していることを忘れてはいけません。夢中になって単独行動をとらないように気をつけてくださいね。

 

ここは、放牧していた馬が逃げないように作られた土塁です。以前きた時に、木に熊の爪痕がついていたので、ちょっと緊張しながら通り抜けます。

ふいにあらわれた巨石。案内人の浅沼利一郎さんによると、「風の又三郎」にもこういった巨石が登場するのだそうです。

 

空が光ってキインキインと鳴っています。
それからすぐ目の前の霧の中に、家の形の大きな黒いものがあらわれました。嘉助はしばらく自分の目を疑って立ちどまっていましたが、やはりどうしても家らしかったので、こわごわもっと近寄って見ますと、それは冷たい大きな黒い岩でした。
(「風の又三郎」より引用)

 

小さな子どもなら、家だと思うくらいの大きさでした。物語の中に入り込んでしまったような感覚に包まれました。
山頂付近は少し急な登り坂。山頂でお昼を食べようということになり、シャキシャキ登っていきます。

思ったとおり。山頂からの景色は雲に覆われていて、早池峰山も隠れてしまっていました。それでも、気持ちのいい開放感と心地よい疲れ、鳥のさえずりに癒されながらお昼をいただきました。

 

お弁当は、昨日作ったクリームシチューと具沢山サンドイッチ(*´ー`*)
おそとで食べるごはんってなんでこんなに美味しいんでしょう。

しばらく休んだら、雨が降らないうちに下山します。今回はモリブデン鉱跡は見送ることにしました。無理なく安全に帰ることも大事です。

 

下山途中、先頭を歩いていた浅沼さんが異変を感じ、立ち止まりました。
「しっ…。きこえたか?」
みんなも立ち止まって耳をすますと、
「ぐるるる…」という声がします。
「熊が近くにいる。」

全身鳥肌がたちました。こんなに近くで野生の熊の声を聞くのは初めてだったからです。浅沼さんがおしえてくれました。

「熊はこうやって、『自分はここにいるよ』と教えてくれてるんだよ。」

そういって自分も「ホゥッ!」と声を発しました。
“聞こえたよ、安心してくれ”と言っているように感じました。
山は人間だけのものじゃありません。動物も植物もみんなみんな同じ命という、宮沢賢治さんの声が聞こえた気がしました。

 

無事に下山し、最後に向かったのは宇瀬水牧野。ここには牛が放牧されています。春に美しい姿を見せる一本桜も、今は新緑に変わっていました。少し歩くとやまなしの木があるとのことで、行ってみると牛さんもついてきます。

 

▲なんという笑顔!まるでお孫さんの姿をカメラに納めているようです。

 

 

色々あったフィールドワークもそろそろ終わりというころ、
ざーーーっと雨が降ってきました。
なんというタイミングの良さ。きっと今日の参加者の中に晴男か晴女がいたんですね。

 

 

風の又三郎を追いかけて

 

「大迫」が「風の又三郎」の舞台だといわれている理由を、五感をフル活用してじっくりと感じることができました。賢治作品を読み解いていくのに必要なのは、本を読むだけではなくて、自然の中を歩いてみることが1番の近道です。
自然の美しさ、おもしろさ、そして厳しさ。それを体験してしまうと、本だけ読んで知ったようになっていた自分がはずかしくなりました。これからも、大迫で暮らしながらもっともっと山に足を運んで、色々なことを体験していきたいと思っています。
頼もしい大先輩に学びながら。

 

 

 

【抜粋・引用・参考文献】

・宮沢賢治全集5巻、7巻  宮沢賢治・著(ちくま文庫)

・賢治さんと歩く小さな森の物語 猫山・外川目編(NPO法人いわて芸術文化技術共育研究所)

私が書きました
塩野 夕子

2018年10月、埼玉から移住してきました。花巻市地域おこし協力隊3年生です。
まきまき花巻の編集部と市民ライターを二足のわらじで活動しています。3度のメシと同じくらい宮沢賢治さんが大好きです。特技はイラスト、消しゴムはんこ。リトルプレス「たまごパン」もかたつむりペースで発行しています。