まきまき花巻味わいたい山里で味わうドイツの家庭料理・花巻市大沢の「バックシュトゥーベ」
山里で味わうドイツの家庭料理・花巻市大沢の「バックシュトゥーベ」
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 2月の半ば、花巻の街から車で志戸平、大沢温泉方面へ十数分も走れば奥羽山脈の懐。
     大沢温泉の駐車場を過ぎ、交番を左に見てすぐ右側の電柱に小さな看板。
     そこから小道に右折すれば「バックシュトゥーベ」
     東も西も山は近い。

 呼び鈴を鳴らすと「待ってましたよ、どうぞ」ドイツ出身のポール・ツイマーマン、飯田明海さんのオーナー夫妻の出迎え。
 数日前にランチを予約しておいた。
 入ってすぐ目に入ったたくさんの錫(スズ)細工。 
 奥行感のある銀色の輝き、
裏にも精巧な細工が施され、手にすると重みがある。

 ポールさんは、ドイツの作家から取り寄せ日本に紹介していた。

 小さなカフェレストランは、採光が良く「白の素敵な空間」

 

 ポールさんは、十代から陶芸を始め、ドイツで見た日本の陶芸作品に深い感銘を受け、26才で単身、陶芸を学びにやって来た。
始めは茨城県の著名なドイツの陶芸家の下で学び、後に備前などで修業。
 一方、明海さんは、父親が医師で大沢の診療所に赴任すると、ここの自然をとても気に入り家族で暮らすことになった。
 その後、画
家の道へ進んだ。
 二人の出会いは明海さんが慕っていた叔母様が取り持ったと言って良いだろう。叔母様は、茨城でレストランを経営し、そこでアルバイトをしていたポールさんを気にいっていた。仙台の陶芸展で出合い、心惹かれる作品が同じだった。それから、あちこちの展覧会に行く度、不思議なほど目に止まる作品が同じだった。感性の一致は、すぐに二人の距離を縮めた。

 

 その後、一緒にドイツに渡り、陶芸と絵画の二人展なども開催。
 30年前、日本に戻り、ここ大沢の地でポールさんは陶芸を始めた。

 <棚に並ぶポールさんのドイツでの作品>

 ゆっくり部屋の中や窓の外を眺めたりして待つのも、ちょっと贅沢な気分。

 

 いよいよランチが始まり「レンズ豆のスープ」から

 トマト、ニンジン、タマネギ、ニンニクにレンズ豆。ひと口ごとに優しい味が広がる。
散らされた紅い粒(レッドペッパー)がとろりとした味を引き締める。
 スプーンが忙しくなる。
 レンズ豆は、爽やかな香りと甘みがあり、火が通りやすく栄養も豊富なので世界の色々な料理に使われている。名前のとおりレンズの様な形の豆で、岩手でも手に入るそうだ。

 次は、ワンプレートで

 

 ソーセージには、キャベツなどを発酵させたドイツの代表的な料理の一つ「ザワークラウト」が添えてあり、さっぱり感が増し、かほどに肉の旨味を引きたてビタミンも豊富。
 「北あかり」を使ったジャーマンポテトは、焼き加減が良く香ばしい。
 オニオンパイは、サクサクとした食感から滑らかな口あたりに変わり、ペロリと平らげた。
 奥さんの作る生地はパイを一つに馴染ませ、とてもおいしい。

 使う野菜や香草などは自分の畑や知り合いの農家が作る有機栽培。

 主食のパンは、小麦の香り高く、ほどよい酸味を感じながらかむほどに、ほのかな甘みへと変わる。なるほど、評判が良いわけだ。

 ヨーグルトを作る際に固形分と分離した水分(ホエイ)を使うパンは、ワンプレートの料理と良く合う。このホエイは、ビタミンB群などが豊富なうえ栄養価も高く、今、見直されている食品。

 

 デザートは、ブルーベリーのチョコレートケーキを選んだ

 甘さ控えめで、ほどよい酸味がありおいしい。
 ブルーベリーのケーキに、アップルコンポートとクワーク(フレッシュヨーグルト)を添えて。

 

 自家製のハーブティーを飲みながら、「どうしてカフェレストランを始めたのですか?」と尋ねた。
 花巻に来て陶芸に向かいながら、あちこちで主食のパンを探し求めたが、なかなかポールさんの納得するドイツパンに出合えない。
 それなら自分で作ろうとドイツの実家からレシピを取り寄せ、パン作りを始めると持ち前の探求心に火が付いた。
 試行錯誤しながら「ポールさんのパン」が誕生。友人たちにも配ると「もっと食べたい!店を開いたら!」とあちこちから。

 結局、パン工房とカフェレストランを始めることに。
 「こねる相手が土から粉に代わった」と笑う。

 ここに暮らし30年、店を開いて26年。
 ドイツ料理をベースに安心な素材で作るポールさんの料理は、優しい味で食べているうちに心が整う。
 今ではパンやシュトーレンなどを待ち望むファンは全国に広がっている。

 奥さんは、料理を手伝い、綺麗に盛り付ける役目。
 もともと二人はアーティスト。なるほど、提供する料理が綺麗なわけだ。
 ドイツの話を聞いていると行ったことはないが南ドイツの針葉樹の広がる「黒い森」で、ランチしている気分になり、つい時の流れを忘れる。

 「バックシュトゥーベ」とは、ドイツ語で「パンの工房」の意味で、昔、ドイツ南部の農村では自分の家にパン工房があったそうだ。

 帰り際、ポールさんは言った。
 「お客様をイメージして心を込めて作ることは、とても楽しい。だから26年も続いているのです。そして、ここは少し、故郷に似ている」

 例年は雪深い所なのに、あの日はまるで春の様だった。

 

 <帰りに買った錫細工>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Backstube | バックシュトゥーべ

住所/岩手県花巻市湯口字大沢160-2
営業時間/AM11:30~PM17:00まで
定休日/毎週日曜・月曜
電話:FAX/0198-25-2277
E-mail/backstube.hanamaki@gmail.com
ホームページ/
http://www.backstube-hanamaki.com

※カフェレストランは予約制です。
 営業中は、テイクアウトできます。錫細工も販売しています。

 

 

 

私が書きました
千葉芳幸

花巻出身で盛岡在住。
宮沢賢治さんが生まれ育った花巻と思春期を過ごした盛岡を行ったり来たりしています。