今年は例年に比べ雪もなく、すでに春の足音がすぐそこまで聞こえている。裏道散歩当日、岩手県花巻市の玄関口の一つである花巻駅は部活帰りの高校生たちや花巻市外からの旅行者で賑わっていた。例年この時期は雪はまだまだ残っていて、春と呼ぶには程遠く感じるほど。ポカポカ陽気のこの日は少し風が強かったが、薄手のコートでも良いくらい暖かい。

心躍るような音が聞こえて

　午後２時、オルゴールの音色が聞こえてきて、それを目指し歩いてみた。花巻駅をでて右に進むと広場に出る。その先にメルヘンチックなからくり時計が音色を奏でていた。

　宮澤賢治先生の「銀河鉄道の夜」という作品をモチーフにしたこのからくり時計は、１時間に一度演奏をする。

　タイミングが良かったのか、聞くことが出来た。これを逃すと次は３時まで待たなければいけない。

　演奏が終わって、奥へ進むと大きい通りの裏の道にオシャレなカフェがそこにあった。一体どんなオーナーがいて、どんなメニューで、どんな雰囲気なのか、とても気になるところだ。今回は入る時間が取れなかったので、今度入ってみたいと思う。

加速する春の足音

　裏道の散策を続けていると、遠くに黄色い花が見えた。近づいてみるとそこには福寿草が見つけてくれと言わんばかりに顔を覗かせている。思いがけず春の訪れを発見して嬉しくなった。近くに目をやると、よもぎ、ふきのとうも顔を覗かせていて一気に春の匂いを感じた。現在では見直しによりリストから外れたものの、福寿草はかつて絶滅危惧種とされていた。

　この場所でたくさんの春を感じ、名残惜しくも散策を再開した。少し歩けば車で走ると見逃してしまいそうな場所に藤木神社があった。花巻駅から徒歩２分程度というのに人通りもほとんどなく、ひっそりとした佇まい。毎年７月１日、宵宮はこの藤木神社から始まる。

　この場所は高台にあり、花巻を一望できるスポットだ。雲ひとつない青空のもと、遠くには雪化粧の早池峰山もうっすら見る事ができる。ここから下にはおりられないが、足を運んでみる価値はあると思う。反対側には夜にとても美しい壁画がひょっこりと覗くことができる。

　神社を出る際、木に鳥の巣があるのを見つけた。夏になり木が青々と生い茂っていたら見る事ができなかっただろう。今の時期だからこその光景であることには違いない。

　今度は駅前交番の裏にある坂を下りてみる事にした。空き地や民家の庭先にもふきのとうが心狭しと顔を並べている。花巻周辺でこんなにたくさん出会えるとは想像もしていなかった。

　岩手県ではふきのとうのことを「ばっけ」と呼ぶ事が多いのだが、この「ばっけ」、実は天ぷらにして食べたりする。春ならではの味覚でもあるのだ。

花巻駅周辺の散策スポット

　花巻駅前交番の後ろにある坂を下っていくと、途中に細い路地がある。地元の人はよく近道として利用している道路のため、交通量もそれなりに多い。この道を車で走ることはあっても、歩くことはほとんどないのではないだろうか。

　事実、歩かなければ発見できなかったことも多い。例えば石段。車を運転すると一瞬にして通り過ぎるこの石段の存在を知らなかった。歩くからこそ発見できたようなものだ。果たしてこの石段の先には何があるのだろか。

　かれこれ１時間くらい散策をしている中で、こんなにもワクワクしながら石段を上がったのは初めてかもしれない。

　上りきると、真っ青な空に白い外壁がよく映えている。ここは花巻カトリック教会だ。思わずカメラのシャッターを押してしまった。猫が昼寝をしていそうな路地だが、あいにく猫１匹どころか人ひとり歩いていない。

　この角を曲がるとかっぱ飯店という飲食店があるのだが、美味しいと評判。しかし実はまだ行ったことがない。ここも後で行ってみようと思う。ふと看板の奥は進めるのかと気になり、奥へ進んだ。

　「こんなところに小さな公園がある！」思わず驚いてしまった。

　周りは住宅街で、すぐそばには駅もある。こんな場所にまさか公園があるとは全く想像もしていなかった。

　周辺の住民には当たり前かもしれないが、花巻に来て約１０年になる私にはとても新鮮だった。駅周辺を歩く機会がほとんどなく、いつも車で通り過ぎるこの場所に新たな発見だ。この散策に同行した我が娘も大喜びで楽しんだのである。

　今回は花巻駅周辺を散策してみたのだが、裏道はとても面白い。裏道も車で通ることも可能だが、やはり一瞬で過ぎてしまう。歩かなければ気づかなかったこと、発見できなかったことにたくさん出会い、花巻の新たな魅力を感じることができた。今度はどこの裏道を散策しようか、今から楽しみで仕方ない。