まきまき花巻見たい魂を込める。花巻のこけし工人「佐藤忠雄」
魂を込める。花巻のこけし工人「佐藤忠雄」
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花巻には数十年前まで10人前後のこけし職人がいたと言われています。

2020年現在、現役でこけしを作っている職人は2名。

以前も記事で紹介した、煤孫さんと本日紹介する佐藤忠雄さんです。

https://makimaki-hanamaki.com/5404

 

今回は、佐藤忠雄さんのこけしの魅力に迫ります。

 

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9月某日。

漆の職人に紹介していただき、こけし職人の佐藤忠雄さんを訪ねました。

到着すると同時に、早速木地を挽く様子を見せていただけるということで、工房に案内されます。

 

「俺は向挽き。向挽きと横挽きの違いわかる?」

 

早速、聞きなれない言葉が出てきます。違いを訪ねてみると、

 

「向挽きは俺みたいに正面から木地を挽くこと。煤孫さんは横挽きで側面から挽いてるでしょ」

 

確かに、煤孫さんは横から挽いていました。こけしの系統などによって違うようですが、花巻で2つの挽き方が見られるのは不思議です。

 

▲「向挽きと横挽き」忠雄さんはこけし頭頂部を正面に、煤孫さんはこけしの側面を正面に挽いているのがわかります。

 

60年以上木地を挽き続けている忠雄さんは、手慣れた手つきで木地を挽いていきます。

あとで伺ったことですが、木地を挽くために使うカンナはすべて自分で作っているそう。

 

鋼を切って柄を付け、先の金属を熱で曲げて、丁度良いカーブを作る。

「ハンドグラインダーで作る人も多いと思うけど、鋼を叩いて伸ばして作る職人はまず少ねえべなぁ」

道具を自分自身で作るというのは、こけしならではです。

 

▲工房の至る所にカンナが。こけしの大きさなどによって使い分けています。

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工房でこけし挽きの様子を見ていただいたあと、自宅に案内されます。

玄関を上がると、右手にはずらりと並んだこけしが。

 

「右からイ・ロ・ハ・ニ。基本的な描彩はこの4つ。全部菊の花を描いている。一番右は菊の花を簡略化させたもの。簡略化させたものが一番難しいんだよ」

 

一見単純化されているように見えるものこそ、難しいと言います。

 

▲菊の花を表したひし形の模様。上手くいくと定規で引いたように完璧なひし形になっているんだとか。木材はコサンバラ。

 

「親父の代で手を込めて、頭がくらくら動くようにした。初代はここまで動かない」

 

忠雄さんのこけしは、はめこみ式構造で頭がクラクラ動くことから、南部系に分類されます。こけしの分類については、煤孫こけしの記事(https://makimaki-hanamaki.com/5404)を参照してください。

 

こけしの描彩や型について伺ったところで、隣のだるまに目が移ります。

 

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だるまの美しい木目と描彩に目を奪われた私は、手に取ってじっくり拝見させていただきました。

 

▲(中)目を奪われた作品。黒柿と言われる希少な柿の木を使っている。墨で書いたような黒い模様が特徴的。▲(左)桑の木を使っただるま。年数が経つと色が光沢して良い色になっていくのだという。▲(右)父英吉の復元依頼を元に作った赤いだるま。

 

「木目を生かして模様を描いてるんだよ。あまり線を太くしすぎるとせっかくの木目が台無しになる」

木目を殺さぬように描かれた模様のバランスが絶妙です。

 

ここで、さらに忠雄さんの話に耳を傾けます。

 

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「目鼻は魂を込めないと描けないから必ず丑三つ(24:00-3:00)に描くんだよ。魂がこもっているかどうかはこけしを見ればわかる」

 

見る人が見ればわかるという忠雄さんは続けます。

 

「こけしを何千と集めている人は、じっくり眺めて、これだ!というこけしを選ぶ。しかも、その人に『君は肩が痛いだろ。しかも右だ』と言われるんだよ。なんでわかるんですかって聞くとな、『こけしが語ってる』ってなあ。

 

金が無いときに作ってもわかるってさ。金欲しい欲しいって出てるって。それぐらい魂がこもってる。5分や10分違うだけでも、考えること違うんだべや。絶対同じはねえんだから。みんな同じだったらコピーでいいもんなあ。スタンプでもいいもんや。ところがそうはいかねえの、伝統は。魂を入れろ入れろって。すごいもんだよ。

 

おらもなあ、一晩中10100本作ってもさ、いいなって思うのは1本あるかないかだよ。それをまず取っておく、大事に。やっぱ見る人見て、欲しいって。そういうもんだよ、魂入れたのと入れねえのは。模様のことはいいんだよ、ぱっぱぱっぱ描けるんだ。目鼻だけはそうはいかねえ。みんな子ども寝かしつけて、夜中の12時から3時の間、本当に真剣勝負。それで決まる、そういうもんだ」

 

▲(上)東京こけし友の会の頒布品といて作ったこけし。頭が桑の木、下が梨の木で「苦はなし」を表す。▲(左)えじこ。昔、農村ではえじこと呼ばれるかごに赤ちゃんをいれて農作業をしていた。えじこに赤ちゃんが入っている様子がモチーフ。▲(右)魔除けのこけし。ハワイで採れたククイの種を頭にしている。

 

 

話は師匠でもある父、佐藤英吉さんの話題に移ります。

 

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忠雄さんは昭和30年、当時花巻にあった君塚木工所に就職し、木地師になります。昭和45年頃に父である佐藤英吉に勧められて、君塚で働きながら自宅でこけし作りを始めました。

 

「親父がこけしをやってたから、日中務めて、夜帰ってきてからこけしを作るようにしてさ。それで腕を磨いた」

 

君塚での木地師としての技術はあったため、父からは主に描彩の指導を受けていたそうです。

当時、こけしの描彩の修行は、まず卵型の瀬戸物に描いては消しを繰り返し、次に電球、まるめた白い紙と、徐々に慣らしていくのが普通だったのですが、父には最初からこけしに直接描く形で指導されました。

 

「厳しかったよ、うちの親父。なんぼ親子でもなあ、滅多に教えねえ。怒鳴られたりなあ、まず厳しかったよ。他人だったら我慢できる。親子で厳しいの、つらいもんだっけ。だから正月にさ、酒っこ買ってきて飲ませたりして、『俺あそこちょっと知りたいんだけど』って言えば、教えられたりしたの」

 

親子である以前に、師匠と弟子の関係でもあったのです。

 

全日本こけしコンクールなどで多くの表彰を受けている忠雄さん。

日本で5人しかいない名人位を持っていた父英吉。その技術と思いを、確かに受け継いでいます。

 

▲棗(なつめ)。抹茶を入れるもの。素材はシコロ(キハダ)と北欧ナラ。シコロは太い道管が作り出す木目が特徴的。北欧ナラの棗は敢えて切り込みを入れている。

 

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今回紹介した忠雄さんのこけしは、『宮沢賢治童話村内のお土産ショップ 森の店っこや』や『まちなかビジターセンター』で購入できます。

 

▲購入した3.5寸と1寸のこけし。1寸のこけしでは、自転車のタイヤに付いているスポークと言われる部品、それを溶接で改良して穴をあける。この小ささで描彩を施し、首を振る細工までしているのは驚きです。

 

「こけしを集めている人は、工人とおしゃべりして、話して、そうして買っていくんだよ。工人と会いてえって」

 

こけしは工人と話をしてこそ良さがわかるもの。

ご興味のある方は、ぜひお問合せしていただき工房へ訪問してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

私が書きました
今野陽介

花巻市地域おこし協力隊。
花巻の工芸品、民芸品が好き。
2019年10月から花巻に住んでます。