私がまだ高校生の頃、観光で童話村を訪れた際に気になっていたこけし工房『木偶乃坊』。
今回訪問の機会をいただき、4年を経て初めて工房の中を見学させていただいた。
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▲工房外観、軒先の木材が目を引く。
煤孫(すすまご)こけし三代目である煤孫盛造工人*1がこけしを制作している。木地挽き(ろくろを用いて木工品を加工、製造する職人)として様々な木工品を制作している中で、その合間にこけしを制作していたのが始まり。
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▲擬宝珠(ぎぼし、橋や神社、寺院の階段や手すりの柱の上に設けられている飾り)の設計図、煤孫家は代々木製で擬宝珠を制作していた。
そもそもこけしには各地域で系統があり*2、煤孫こけしは南部系こけしに分類される。
南部系こけしは、胴・顔・頭頂部に一切模様を施さない無彩で頭がクラクラ動くのが特徴だ。その起源は、「キナキナ」と呼ばれる乳児のおしゃぶりで、そのままほとんど形状を変えずにこけしとして販売されるようになった。
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▲煤孫工人が制作したキナキナ、花巻地域ではキックラボッコと呼ばれていた。
その中でも煤孫工人は木材にこだわっている。頭と胴を一本の木から作っているので木目の出方も美しい。
利用している素材は岩手の木々。手に取ると岩手の山々のぬくもりを感じることができる。コサンバラ(アオハダ)、イタヤカエデ、サクラ、エンジュ、クワ、ナラ、ミズキ、トネリコ、リンゴ、ケヤキ、タモ、ヤマガなど30種類以上の木材で製作してきた。木々の種類により木肌の色合いや木目の違いがあって面白い。
特に煤孫工人はアオハダという木材を好んで使う。白地で木目が見えないため描彩がよく映える。アオハダをこけしの用材として使っている職人は全国でも珍しいそう。「アオハダは削り心地が良い。だから形も綺麗に出る。」この言葉に職人としての感覚の一端を感じることができた。
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▲利用している木材。左からアオハダ、ケヤキ、ヤマナシ、サクラ、エンジュ。
現在は無彩のこけしとは別に花などの描彩を施したものや宮沢賢治モチーフにしたデクノボーこけしなども制作している。
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▲描彩を施した煤孫こけし、胴に様々な花が描かれている。
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▲マントを羽織り、うつむいて歩く宮沢賢治をモチーフにしたデクノボーこけし。素材は両方ケヤキだが、木によっても色が異なる。
木材の違いによって生まれる様々な魅力。今回の訪問でより知りたい気持ちが強くなり、今後も煤孫こけしの魅力を発信していきたいと思った。
煤孫こけしは以下の花巻のお土産屋さんや工房「木偶乃坊」の公式サイトでも購入できる。
一度手に取り、その魅力を感じてみてほしい。
○ (株)林風舎 岩手県花巻市大通り1丁目3-4
○ 山猫軒 花巻市矢沢3-161-33
○ 童話村内 森のみせっこ屋 花巻市高松26-19
○ 宮沢賢治記念館内売店 花巻市矢沢1-1-36 TEL:0198-31-2117
*1
伝統こけしを作製する職人のことを『工人(こうじん)』と呼ぶ。
*2
伝統こけしは、産地、師弟関係、表現様式等により、11の系統に分けられる。
そのうちの一つ南部系は、頭は比較的小さく、胴は直胴やくびれたもの、中央が膨らんだものと種々ある。一般に、顔や胴模様を描かない白木のものが多い。キナキナと呼ばれ、頭のクラクラ動く、はめこみ式構造のものが多い。参考:みちのくこけしまつり しおり