「ハァ、みやざわさんどごのけんつぁんっか?まんづのうがっこサおでぁるのによぐみせのまえありぐがら、よぐみでやんすよ。いっつもニコニコって、がっこねぇどぎもあっつだこっつだはせあるいで、まんつひまだれこぐごどもながんすべおん。おどさんにしてみれば、かぎょうつぐわげでもねがべし、よめっこももらわねべし、やばつねかっこしてやまサばりではってありぐべし、いっこどほでくてねそうりょうにおがったどごしゃいでらんでねがえすべがね。んでもほんかいだり、わげげすたづのはなしっこよぐきいでやったり、さがすたいもんでがんすな。」
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「ハァ、宮沢さんどごの賢つぁんっか?まんづ農学校サお出ぁるのによぐ店の前歩ぐがら、よぐ見でやんすよ。いっつもニコニコって、学校無ぇ時もあっつだこっつだ馳せ歩いで、まんつ暇だれこぐごども無がんすべおん。お父さんにしてみれば、家業継ぐわげでも無がべし、嫁っこももらわ無べし、やばつね格好して山サばり出はって歩ぐべし、いっこどほでくてね惣領におがったどごしゃいでらんで無がえすべがね。んでも本書いだり、若げすたづの話っこよぐ聞いでやったり、賢す大物でがんすな。」
・賢つぁん → 賢さんの音便形
・おでぁる → 「いらっしゃる」の意。語源は「お出ある」
・歩く(ありぐ) → 音便形
・やんす → 「います」の丁寧語
・まんつ → 感嘆符
・ひまだれこぐ → 暇を持て余す。時には時間ばかりかかって効率が悪いという意味も。
・おどさん → お父さん
・やばつね → 汚いの意
・ばり → ばかり
・ではってありぐ → 出て歩く。「ではる」は「出張る?」よく使う。
・いっこど → 「いっこ」は「一向」なので「一向に」という意味
・ほでくてね → よくわからないの意。語源は「放題がない(常軌を逸している)」。
・惣領 → あと継ぎ、長男
・おがる → 育つ。語源は不明ながら、江戸時代は江戸でも使っていた由。
・ごしゃぐ → 怒るの意。語源は「ごせを焼く」らしいが「ゴセ」の意味は不明。
・わげすたづ → 若い人たち
・さがす → 賢しいの訛り
・たいもん → 大物。このような音読みは方言の中によくある。
「ハァ、宮沢さんのところの賢さんのこと?農学校にお出でかけになるのによく店の前歩くから、よく見てますよ。いつもニコニコして、学校(の勤め)が無い時もあちこち走り回って、時間を持て余すことも無ないでしょう。お父さんにしてみれば、家業継ぐわけでも無く、嫁ももらわいでしょうし、汚い格好で山にばかり出て歩くし、さっぱりわけがわからない後継ぎに育ったものだと怒っているのではないでしょうかね。でも本書いたり、若いひとたちの話をよく聞いてやたり、頭の良い大物でしょう。」