まきまき花巻体験したい人も自然も温かい早池峰山
人も自然も温かい早池峰山
1 まき
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「山に登ることが好きです」と言うと、さぞ毎年全国の山に出かけていくのだろうと思われます。でも実際は仕事以外で山に登るのは年1〜2回程度なんです。冬登山や泊まりがけの登山もやったことはありません。「ひとりで静かに山に登りたい」という孤高の登山者にもお会いしたことがありますが、わたしは逆です。ザ・登山シーズンで、登山者仲間がまわりにいっぱいいる時に登るのが好き。
それは不測の事態が起きたらと考えるとキリがないくらい心配になるからです。山の生き物との予期せぬ遭遇、体調不良、怪我などなど。登山はハイリスクな趣味だと思っています。

「そんなに心配ならどうして登るの?」と友人に聞かれました。

それは…。自分でもうまく説明できないのですが、宮沢賢治の愛好家だった師匠の故浅沼利一郎さんに常日頃言われていたからかもしれません。

「賢治さんの作品世界は実際にある目に見えるものなんだから、自然の中を歩いてみればわかるよ」

そう言われてから、浅沼さんや登山慣れしている方と何度か早池峰山に登りました。この間、友人と話していてこんなことを聞きました。
「宮沢賢治が早池峰山のことを作品に書いていることを知っていて早池峰山に登っている人って、意外と少ないですよね。とてももったいないと思う。」

私は今年の9月まで大迫町にある「早池峰と賢治」の展示館という施設で案内をする当番を月に数回やっていました。登山シーズンは格好から一目で分かる、山登り帰りの方たちがその施設に数多く寄ってくださいます。登山口へ向かう河原坊には宮沢賢治詩碑があり、「山の晨明に関する童話風の構想」の一部が紹介されています。その詩碑を見たというお話は聞くのですが、「宮沢賢治のゆかりがあった事を知らなかった」という声をよく伺いました。説明を熱心に聞いてくださる方もいて、ぜひこの次の登山まで覚えておいてほしいなと思ったものです。 

 

はじめてのひとり登山

 

今年の7月初めに早池峰山に登ってきました。友人と登るつもりでしたが、あいにく都合が合わず。どうしてもこの時期に登りたかったので、意を決して初めてひとり登山を計画しました。その理由は、ハヤチネウスユキソウが一番美しい時だからです。ちょうど梅雨の時期とぶつかるため、天気と予定を合わせるのが毎年難しいのですが。

みなさんは、早池峰山の固有種「ハヤチネウスユキソウ」をご存知でしょうか。キク科の多年草で、ヨーロッパのエーデルワイスによく似た花です。近くでよく見ると白い葉の表面はフワフワした起毛のようになって、朝露がついている様は、まるで宝石のように美しいです。しかし近年様々な理由からその数は減っていて、絶滅の危険性が高い植物でもあるとのことです。
その理由のひとつには人間も関わっていると、師匠の浅沼さんは教えてくれました。希少な花であるがゆえに、ハヤチネウスユキソウに限らず盗掘があるのだそうです。早池峰山で咲くからこそ本当の美しさがあるのであって、それを盗むなんてあってはならないことです。生前浅沼さんは事あるごとに悲しそうな顔で話してくださいました。「お花が泣いている」と。

▲ハヤチネウスユキソウ(キク科)

この日は岳駐車場まで車で向かい、そこからはシャトルバスで小田越登山口まで乗っていきました。オンシーズンだけあって大賑わい。グループで楽しそうにしている方たちや、私のように個人で登る人など様々でした。近頃は熊に遭遇することも危惧されていますので、できるだけ賑やかな方達のそばで登りたいなとこっそり考えていました。熊鈴だけは常備していましたが、やはり熊スプレーも買っておきたいところです。お互いが不幸なことにならないように。
小田越登山口に着くと、無事に登って降りてこれるよう手を合わせました。お山を傷つけることがないよう、トレッキングポールの先にはゴムのクッションをつけて入ります。歩くときも、普段平地で歩くようにガツガツするのではなく、岩を転がさないように気をつけて進むようにと浅沼さんから教わっていました。

3年ぶりの早池峰山は濃い生気に満ちていて、一歩進むごとに、呼吸をするたびに身体全体に流れてくるようでした。連日の雨で足元は滑りやすくなっていましたが、それでもここを歩いていることが嬉しく、息は弾んでいました。


天気に恵まれることは期待していませんでしたが、森林地帯を抜けたところでは予想通りガスっていました。風も相当強かったですが、気温も高かったので逆に心地よく感じます。ただ、油断していると吹き飛ばされそうなくらいでしたので、焦らずに進みました。今日の目標は登頂することではなく、高山植物を自分なりに写真におさめて怪我なく下山することでした。

 

花の山で大興奮!

▲ミヤマオダマキ(キンポウゲ科)

大きな大きな岩を這うように登っていくと、パッと目につく鮮やかな花たちが出迎えてくれます。「あら〜!!!」と近づきご挨拶。可愛いですね〜綺麗ですね〜と声をかけ、怖がらせないようにカメラを構えます。テクニックはまだまだ素人なので、おかしなところにピントが合ってしまうこともよくあるのですが。この時はスマートフォンのカメラで撮らせてもらいましたが、最近身の丈にあった小さなカメラを購入しました。せっかく会えたお花さんたちを綺麗に撮れるように、写真の練習をしていきたいです。

 

▲ホソバツメクサ(ナデシコ科)

まるで星のようです。そういえば、宮沢賢治さんも「ひのきとひなげし」という作品のなかで、「あめなる花をほしと云い この世の星を花という。」と書いていたなぁ、とぼんやり考えました。まわりの岩たちも共鳴して、まるで宇宙のようだなとも。
道端でよく見かけるキュウリグサ(ムラサキ科)やオオイヌノフグリ(オオバコ科)も、青い星みたいだと思っています。

 

写真ではなかなか伝わりませんが、強風で息をするのが苦しいこともあるくらいの景色です。賢治ファンのあいだでは、「これが賢治さんの書いていたゼラチンの霧か〜!」というところです。以前ファン仲間で登った時には、岩に腰掛けて詩の読み回しをしました。用意してくれた詩を印刷した紙が危うく飛んでいってしまうところでしたが。賢治作品には多くの花や草木が登場するので、本物を見たいと思い、読書と並行して日々勉強しています。←楽しすぎる(^○^)

いよいよ山頂付近へ

鉄梯子も無事に通過して、ようやく歩道にでました。このあたりで以前ホシガラスに会ったことがありまして、今回はどうかなと思っていましたが中々どうして難しかったです。道中沢山の種類の花を見ることができました。早池峰山が花の山と言われている理由に納得です。これは全国からファンが訪れるわけですね。毎週登れたら楽しいだろうとな。

 

▲ミヤマシオガマ(ゴマノハグサ科)

▲キバナノコマノツメ(スミレ科)

▲コバイケイソウ(ユリ科)

▲ミヤマアズマギク(キク科)

▲ミツバオウレン(キンポウゲ科)

▲コイワカガミ(イワウメ科)

 

山頂は雨模様

山頂に着くと、心配していた雨が降り始めました。岩陰に避難してまず休憩を取ります。避難小屋は混み合っていたので、お昼ごはんは岩の下で食べることに。惣菜パンとお菓子。簡単にすぐ食べられるものにして正解でした。雨具は持参していたのですが、問題は下山です。早池峰山の岩は濡れると非常に滑るので、怪我なくいけるか心配でした。山頂にもう少しとどまりたい気持ちがありましたが、安全を考えて早めに山を降りました。トレッキングポールも滑るので場所によってはリュックにくくりつけ、ゆっくりゆっくり動きます。浮石もあるので、足首をぐきっとすることもありました。鉄梯子も濡れていて、滑ったらどうしようと半泣きになりながら降りました。 

それでもどうにか時間をかけて登山口まで辿り着くことができました。膝が笑っていますし、なんだか動きがおばあちゃんみたい。帰ったらお風呂にゆっくり入って、お寿司と日本酒をやりながら日記をしたためます。

 

ひとり登山だけどひとりじゃない

どういうことかというと、山ってひとりで黙々と登っていても話しかけてくれたり、励ましてくれたりする方が沢山いるのです。この日も、上りで石川啄木ファンのお爺さんとおしゃべりしましたし、偶然友人とすれ違いました。危ない場所で誘導してくれたおじさまがいました。帰りのバスの中では、隣に座った女性に今日の登山のことや他の山を歩いた情報などを聞かせてもらいました。ほとんど初対面なのにこの親しみやすさと安心感。楽しいったらありゃしないです。
きっと浅沼利一郎さんも生前、この早池峰山で星の数ほどの人たちと出会ってきたのだろうと思います。バス停でシャトルバスを待っている時も、どなたかが浅沼さんのお話をされていて胸が熱くなりました。お山も人も愛し愛されていたのですね。私も教えていただいたことを大切に思い出しながら、来年も再来年もこの早池峰山に会いに来たいです。

日頃から早池峰山で巡視をしてくださっている、森林保護員の方達への感謝も忘れてはなりません。知らなかったということが、山の環境に大きな影響を与えることもあるのです。登山をする際のマナーは、山に入る前にまず調べておくことも大切ですね。

まだまだへなちょこ登山者ですが、山に登ることが大好きです。最近腰を痛めてしまい今年はもう登ることができませんが、来年の山開きまでには体力をつけて、分からないことは勉強して過ごしていきたいと思います。

 

いかがでしたでしょうか。
若葉マークの登山者ゆきまどの話を聞いて、少しでも早池峰山のことに興味を持っていただけたら嬉しいです。
大迫町にある花巻市総合文化財センターでは、早池峰山の自然や山のことを学べる展示がありますので、ぜひこちらの施設にも足を運んでみてください。
以前まきまき花巻の記事で、市民ライターのMicanさんが紹介してくださっています。

早池峰の自然、歴史、文化、人が学べる場所、花巻市総合文化財センターへ出かけてみませんか?


最後まで読んでくださったお礼に、2022年8月に早池峰山で撮影した青空を贈ります。

 

 

私が書きました
ゆきまど

本と酒と山が好きな「ゆきまど」と申します。日本各地の文学館や独立系書店・古書店を目当てに旅がしたいと目論んでいます。花巻には2018年秋から暮らし始めました。