2016年6月7日、花巻のランドマークであり市民の憩いの場であったマルカン百貨店は43年の歴史に幕を降ろしました。その後の高校生による署名活動を皮切りに、若手経営者による存続プロジェクトが立ち上がり、2017年2月20日、新生・マルカンビルとして6階大食堂と1階が再オープンしました。閉店発表から再オープンまでの8か月を振り返るとともに、営業再開に沸いた2月20日の様子をまとめました。
閉店発表が全国ニュースに。閉店まで連日大混雑が続いたマルカン大食堂
マルカン百貨店は現在の場所である花巻市上町に、地下1階、地上8階建ての百貨店として1973年にオープンしました。その後、郊外に大型のチェーン店が進出するなど時代の移り変わりとともに建物も老朽化。2015年には現行の耐震基準を満たさないと診断され、経営陣は改修を断念。2016年3月上旬、同年6月7日には閉店すると発表しました。
このニュースは、花巻市民はもとより、マルカンファンにも大きな衝撃を与え、全国ニュースとしても報じられました。閉店が近づくにつれ、岩手県内でもマルカン百貨店を特集する報道が続き、市内外からやってくる、閉店を惜しむ人々によりマルカン百貨店、その中でも元々大人気だった6階の大食堂は連日大混雑が続きました。
次世代が起こした行動とは。地元高校生や若手経営者らによる存続活動
閉店が発表されてからまもなく、地元・花巻北高の生徒らによってマルカン大食堂の移転存続を求める署名活動が始まりました。その直後の3月18日には、花巻駅前を『リノベーションまちづくり』という手法で新たな雇用を産み出す取り組みをしている株式会社花巻家守舎(代表・小友康広氏)が、株式会社マルカン百貨店側に申し入れ、大食堂を含めた建物全体の運営引継ぎについて検討段階に入っていることを公表。20日には記者会見も実施しました。これを受け、高校生の署名活動は提出先を花巻家守舎宛に変更。花巻市内の街頭やインターネットを通じて5月末まで続けられた署名は、最終的に9,000名以上にのぼりました。
花巻家守舎は運営引継ぎに名乗りをあげてから、「マルカン大食堂 運営存続プロジェクト」を発足。耐震補強にかかるプランを吟味し、改修に必要な資金調達方法について検討するとともに、その事業計画についても引き続き協議を重ねていくことにしました。進捗については随時ウェブサイト等を活用して細部にわたって報告していきながら、5月末には「6階大食堂を可能な限りそのまま残す」ことを目標に、運営引継ぎをこれからも検討していくと正式発表しました。
但し、改修費用を10年間で回収できるだけの利益計画が描けていないことから、自社努力による売上の向上、改修費用の削減検討以外にも、クラウドファンディング(以下、CF)を活用することにし、このプロジェクトの母体として6月1日に新会社・株式会社上町家守舎(代表・小友康広氏)を設立しました。この上町家守舎のもとで、6月15日から、CFによる寄付や協賛の受付を開始しました。
寄付の募集期限は8月31日まで。プロジェクトの最終結論は8月30日に発表されることになっていましたが、幸いにも30日には10年で回収できる事業計画を元にした金融機関からの融資も決定し必要な資金調達が完了。記者発表では2017年2月の再オープンを目指すと発表され、改修工事は9月中旬から始まりました。そして12月中旬、2017年2月20日に営業を開始すると発表されました。日付が具体的になったことで、花巻市民やマルカンファンの期待も高まっていきました。
開店前には大行列。市内外から集まったマルカンファン
2017年2月20日、午前11時。小雪がちらつく曇天模様のなか、マルカンビル前には行列ができていました。先頭は東京からやってきて6時から並んでいたという、10年来のマルカンファンという男性でした。11時半からのオープニングセレモニーが近づくにつれ、列はどんどん伸びていき、150名以上の方が並んでいました。
整理券を手にして並ぶおばあちゃんたちの中には、「結婚して初めて夫と食事にきたのがここだった。」と振り返る方や、「病院の帰りに月3回は寄っていた。なくなってから困っていたけど、これからも月3回は来ますよ。」と嬉しそうに話す方もいました。
お客様もスタッフも笑顔になる!看板メニューのマルカンソフトクリーム
マルカン百貨店の大食堂といえば、お箸で食べる、高さ25㎝の10段巻ソフトクリーム(写真上)が有名です。この日は再オープン初日ということもあり、大食堂は閉店時間まで賑わいが続きました。スマホやデジカメで写真を撮っている方が多く、大勢の方が思い出のメニューを堪能しているようでした。印象的だったのは、お客様だけでなく、運ぶスタッフにも笑みがこぼれている点でした。
経験者と新人が半数ずつのスタッフ50名が一丸となって本格営業開始
オープン前の土日は、5万円以上を寄付した方や、関係者限定のレセプションが大食堂で開かれました。大食堂のスタッフ約50名は以前も働いていた経験者が半数、残りは新人です。2日間のレセプションを試験営業の場とし、20日の営業再開を迎えました。
新しくオープンした店舗名は「マルカンビル大食堂」、そこの新しいフロアマネージャーは菊池英樹さん(写真下)です。花巻市出身ですが、この30年ほどは東京で飲食店を経営していました。立ち退きで閉店を余儀なくされ、次の移転先を探していたところ、現職の募集を知り、上町家守舎に入社しました。菊池さんも含めて、新生・マルカンビル大食堂のスタッフは、株式会社上町家守舎に所属しています。
「大食堂は子供の頃からお客さんとして利用していましたし、学生時代はアルバイトをしていたこともあるんです。こんな形で関わることができて、再オープンしたというのは感無量です。私も飲食業界は長いですが、こんな大きなフロアでの経験はありません。今日、ここまで大きな混乱もなくまわせているのは、キッチンに20人、ホールで5人ほど残ってくれたベテランスタッフを中心にフォーメーションがしっかりしているからだと思います。安心してみています。」