花巻市上町商店街を道路に沿って真っ直ぐ進み、正面に見える芝生の緑とスロープの白のコントラストが美しい花巻中央広場の隣に、2025年9月8日、陶磁器専門商社のショップ兼ショールーム「C.P.D.(シーピーディ)」がオープンしました。
この店舗のプロデュースを行ったのは、花巻市出身の陶磁器デザイナー/エンジニアの阿部薫太郎さんです。
阿部さんは、遠野市と花巻市が連携して実施した昨年度の移住促進の事業において、Uターン移住者としてご紹介をしました。
GOOD NEIGHBOR GOOD CULTURE
https://note.com/gngc/n/n47cf1e0de7c5
今回、阿部さんから花巻市に「C.P.D.」をオープンさせるとのお話を伺い、花巻市シティプロモーション担当が、オープン当日に取材をさせていただきました。
「生まれ育った花巻市で、新たな陶磁器文化の拠点を作り、文化の発信拠点として地域の活性化を見据えている」と話す阿部さんに今回は焦点を当て、ご紹介したいと思います。
陶磁器の道を求めて国内外へ、そして花巻に拠点を
小さいころから工作好きで、花巻市で作られる鍛冶丁焼も身近な存在だったという阿部さんは、「モノをつくる仕事」をしたいという思いから、高校卒業後に花巻市を離れ、陶磁器の道へ進みました。
スウェーデン、タイ、長崎県波佐見町に移り住む中で、一貫して陶磁器の製品化に没頭してきた阿部さんは、現在、西海陶器株式会社に在籍し、「波佐見焼」を軸に、他社のプロジェクトや製品開発に携わっています。
「C.P.D.では、西海陶器で取り扱う製品のほか、自分自身が個人的に関わってきた製品も取り扱っています」とのこと。
実際にショールームを見学すると、カラフルなもの、シックなもの、ユニークな形のものやプリントが施されたものなど、多種多様な商品が並んでいました。
国内外を渡り歩いてきた阿部さんが、その次の舞台を花巻市に定めたのはどうしてだったのでしょうか。
「実は、いずれは故郷である花巻に戻ってきたいと思っていたんです。コロナを機に、全国どこでも仕事ができるということが明確になりました。より具体的に花巻に戻ってくることがイメージできるようになったのが決め手です」と阿部さんは話します。
実物を見ることの大切さ、そこから生まれる使い心地と「美」
阿部さんは、これまで積み重ねてきた経験を活用して、製品の設計、開発、保守などを行う技術者、つまりエンジニアとして、大量に生産される陶磁器製品の一番初めの「型」をつくる仕事を担当しているのだそうです。
阿部さんの手掛ける製品は、丈夫で、重ねやすく、収納を美しく見せられることがポイントとなっているとのこと。
商品は、北欧の食器のようなシンプルかつクリアな発色のものや、シックで洗練されたおしゃれなものが多い印象を受けました。
ただおしゃれなだけではなく、使いやすく、テーブルに明るさや統一感を演出することができそう、と感じます。
スタッキングされた陶磁器やガラス、木などの食器の組み合わせが美しく、ただ食器としての用をなすだけのものではなく、インテリアとして集めたり、飾ったりして楽しみたいと思いました。
異素材を美しく組み合わせるためには、焼き物は綿密な計算が必要となるそうです。
例えば、磁器はそのまま焼くと、約88%に縮んでしまうとのこと。元々の製品や木の製品と組み合わせるためには、縮みを計算して制作します。

右が焼く前のカップ。焼くと左のように縮小する。また、取っ手も焼いているうちに下がってくるため、少し上向きに付けられている
「理論上は大きさを計算できるとしても、重ね合わせたときの食器同士のあそびや感触を確かめるためには、実物を見る必要があり、そのために取り扱うすべての製品が揃っているショールームを花巻に作ったのです」と阿部さんは教えてくださいました。
地域に開かれたショールームで、まちを元気にしたい
「せっかくショールームをつくるなら、地域に開かれた空間にしたい」というのが阿部さんの願いでした。
実は、西海陶器株式会社は、長崎県波佐見町で観光と産業の融合の拠点となる「西の原」という観光地の立ち上げに成功しています。
「ものづくり」と「体験型観光」を組み合わせた“クラフトツーリズム”の視点から、販売ショップだけではなく、展覧会やワークショップ、絵付け体験、波佐見焼を使用したカフェやレストランなどを総合的にプロデュースし、年間約15万人が訪れる地域を創り上げました。
その実績のもと、「花巻市でも新たな価値を創出する取り組みを始めていきたい」と阿部さんは意気込みます。

阿部薫太郎さん
2階をショールーム兼販売店にしたのは、1階をイベントスペースとし、地域の人に使っていただける空間にしたいという展望があるためです。
阿部さんが展開する食器やカトラリーを利用いただきながら、交流やワークショップに使えるように、これから貸し出し方法を検討する、ということでした。
また、「ショールームで商品を売るだけではなく、C.P.D.の企画として“体験”も提供していきたい」と話す阿部さん。
「陶磁器にペイントを施すワークショップや、食器を使った料理のイベントも考えている」と目を細めます。

2階ショールームで店長を務める阿部さやかさんと息子の颯太郎さん
今後の展開がとても楽しみな「C.P.D.」。
地域と文化が繋がり、新たな取り組みがまちの風景の一つになるような良い循環ができればいいな、と取材を通じて感じました。
スタイリッシュな空間と温かみのある陶磁器を見に、皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか?