若者たちによる神楽馬鹿交流会というグループの活動が、最近盛んになってきている。それぞれが所属する神楽団体で、次代を担う10〜30代の若手神楽衆たちだ。
花巻市内には、国の重要無形文化でユネスコ無形文化財でもある早池峰神楽(岳神楽、大償神楽の2座)で有名な「山伏神楽」の団体が、市内だけでもざっと40以上ある。それだけ神楽が盛んな土地でも、鹿踊りや田植え踊りなどの他の民俗芸能同様、団体によっては後継者不足が顕著となっているが、10年ほど前から若手の活躍が目立つ団体も増えてきた。そんな、これからの花巻の神楽を背負って立つ彼らが、団体や流派の枠を超え、交流を始めたのが神楽馬鹿交流会だ。
継承していくには同世代の仲間が必要
中心となっているメンバーに話を聞いてみた。 「僕の家は座元9代目で、いつの間にか小さい頃から継ぐことになっていましたし、自分も自然に継承してきたのですが、ライバルというか、同世代の仲間がいなくなり、自分ひとりになった時には辞めたいと思ったことも正直あります」と岳流幸田神楽の宍戸透高さん。横で円万寺流上根子神楽を継いで3代目の平賀大さんや幸田神楽3代目の佐々木駿伍さんがうなずく。彼らも仲間がいたからこそ、ここまで続けて来れたのだろう。
一方で上根子神楽の北山健介さんや岳流羽山神楽の高橋滉太さんのように、神楽本拠地域に住んでいないのに、好きで参加している者たちもいる。岳流太田神楽の佐藤大輔さんなどは、好きが高じて自らの団体と掛け持ちして、同流である幸田神楽の練習などにも参加しているという。
みんな小学生の頃から始め、進学などで花巻を離れても、帰省時には参加してきた。就職で帰ってきてからも活動を続けてきているが、そんな中で子どもの頃とは違う悩みを持っていた。ライバルがいなかった辛さを経験した宍戸さん、「神楽の地域に住んでいないってのはどうなのか」と言われてきた高橋さん、「女性が神楽をやることに周囲からの抵抗がやっぱりありました」と語る大償流土沢神楽の新田彩乃さん。
それぞれ団体や地域の中で「若手」「女性」などという少数派として悩みの中、「花巻市内の神楽大会で他団体の若い人たちの舞を見ていて、好きな人たちで集まりたいと思ったんですよ」と言い出しっぺの新田さんは言う。そこから幸田神楽の佐々木恒哉さんへと話が繋がり、互いの団体の若手や高校の同級生などを通じて広がっていった。
神楽の今後を担う若手コミュニティに期待
神楽馬鹿協議会は飲み会を開催したり、太鼓や笛を持参して学び合ったりする活動を定期的に行うことにより、それまで足りなかった仲間作りを行ってきた。お互いの悩みや、自分なりの神楽についての意見を言い合い、次世代の神楽を担う同世代コミュニティを持ちつつある。今後それぞれが所属する団体の活性化や情報発信を図ると同時に「若手の発表会なども今後したいですね」とのこと。「外からも若い人に来てもらって、神楽に興味を持つ若い仲間を増やしたいなぁ」という平賀さんの言葉に一同笑顔になった。
3月4日に今年の交流会が開催された。花巻市をはじめ、盛岡市や紫波町、宮古、一関から神楽、中野七頭舞、鹿踊り、さんさ踊りなどの伝承者約50名が集まった。東京でさんさ踊りを練習している方々も、日帰りで参加しているほど。地元参加者の中にも、神楽に魅せられて岩手に移住した人たちもいる。わいわい酒を飲みながら交流し、それぞれの胴前を披露したり、流派を超えて笛などの技術を教えあったり。郷土芸能が好きな者同士のコミュニティができつつある。
いまTVでも取り上げられている「神楽男子・神楽女子」がここにもいる。