まきまき花巻参加したい東和の棚田さ、まんずあべじゃ
東和の棚田さ、まんずあべじゃ
102 まき
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9月。灼熱のような夏の日差しは次第に和らぎ、肌に触れる空気もひんやりとしてきた。

少し前まで青々と茂っていた、私の心のふるさと、東和の棚田。時が経つのは早く、涼しい風が吹き始めるのと同時に、秋めいた黄金色へと衣替えだ。

 

近寄ってよく見てみると、ふっくらとした実りの粒がびっしりと並んでいる。
こうなれば、新米の季節に向けて農家さんは大忙し。合鴨農法の小田農園さんも、育ったばかりの「陸羽132号」をいち早く私たちの手元に届けるべく、コンバインで広大な田んぼを駆け巡る。

 

して、この一面の黄金色は、今年もあの季節がやってきたことの合図。
そう、「東和棚田のんびりRun」。一番早く走った人が優勝、という普通のマラソン大会ではない。秋めく棚田のコースの中に散りばめられた東和の空気、自然、歴史、こびり、人の温かさーその全てを全身で感じ、東和のことが好きになった人が優勝だ。

今年こそはみんなに来てもらいたいと準備を進めていたところだが、状況を踏まえて今年もオンライン配信で東和の秋をお届けすることになった。
それでは、棚田Run名物、エイドのこびりを味わうことはできないのか。

心配無用。9/19の配信に先立って、母ちゃん達の優しさの玉手箱が我が家に送られてきた。
小田農園の合鴨米、宮川さんのりんごジュース、たかすどう産土農産加工の梅漬け、東和温泉のエステサロンmomoのコーヒー。東和のオールスターセットだ。
これで、家にいながらして東和の懐かしい味を楽しむことができる。

9/19、大会当日。8時になると、東和との中継がつながった。すると、どうだろう。向こうに広がっているのは、雲一つない、澄みわたる青空、青空、青空。

前日は雨降りだったというが、今日は台風一過、この棚田Runの開催を祝うかのような快晴だ。
そういえば、私がボランティアで参加した2年前も、 奇跡的な太陽に恵まれていたっけー。


「まっちーさん!!今日はありがとうございます!お元気ですかー?」

思い出に浸っていると、画面の向こうからそう声をかけられた。

「はい!きれいな青空で良かったですね〜!」

みんなが私のことを覚えていてくれていたのが、思いがけず映像の中から話しかけてくれたのが、とても嬉しかった。
ただ自然の映像が流れていくテレビ番組とは違う。懐かしい方々と、一対一で会話を楽しむことができる。これも東和棚田のんびりRunならではの醍醐味だ。

そして、いよいよRun がスタート。
ランナー達が、颯爽ときらびやかな田んぼの横を駆けていく。

 

前日の雨のこともあって、今日は稲刈りをお休みの農家さんたち。そのため、多くの稲達は、まだまだたわわの実に体を預けながら、傍でランナー達を応援してくれている。


「ほら、シャッターチャンスだよ!」
すると、ランナー達はあるスポットで立ち止まり、そう声をかけてくれた。
指差した先を見ると、なんてユニークな看板だろう。


「この坂ゆるぐねな おもさげながんす。」
「こごも んざねはぐとこだぁ よぐやってらなぁ。」


そう、東和弁バリバリの、ランナー達への応援メッセージだ。
皆さんも、どんな意味かを想像しながら、声に出して一度読んでみてほしい。きっと、東和の母ちゃんに道すがら話しかけられたときのような、ほっこりとした温かい気持ちになるに違いない。

 


そんな小さなおもてなしに背中を押され、ゆるぐねえ坂を乗り越えると、いよいよお待ちかねのエイドタイムだ。

「町田さーん、お元気かしらー?」

ああ、いつもの優しい声。手づくり味噌でお馴染みの、たかすどう産土農産加工の菅野徳主さん・和さんご夫妻だ。
今回用意してくれていたのは、きゅうりの塩麹漬けだ。

「きゅうり、おいしいです!」

この塩っけとみずみずしさが、汗かくランナー達にはたまらない。

ボランティアで参加してくれていた、8名の岩手県立大の大学生の若者達も大満足だ。
みんなが食べやすいように、切り分けて小分けにして用意してくれている。そんな心遣いが、尚更このお裾分けを美味しくしてくれている。
一緒に用意してくれていたみょうがの梅漬けも、画面に手を伸ばしてつかみたくなるほど美味しそうだ。

 

 

お漬物と和さん達の笑顔でエネルギーをチャージしたら、さあまた出発。ランナー達の足取りは、より力強くなっている。
そして、お次に着くのは、東和を代表する歴史スポット、旧小原家住宅だ。

江戸時代、藩政時代の農家暮らしを象徴する南部曲がり家。ここは、毎年2月にみんなで手づくり味噌を仕込んだ、私にとっての思い出の場所でもある。
みんなと一緒にこたつを囲みながら、うんめえ味噌を食べ比べしたこと。そこで飲んだ甘酒が、ほっこり優しかったこと―

 

そんな懐かしい思いとともに、藁葺き屋根の下で輝くみんなの笑顔を見守った。この次の冬は、きっとまた同じ場所で会おうね。

 

 

「あどべっこだがらすぅ まんずあべじゃ。」

 

 

さあ、棚田Runもラストスパート。東和町民なら誰もが知る棚田絶景スポット、砂子に向かって、ランナー達も、それにつられた子供たちも、走る、走る。

 

 

いよいよ、一面の黄金色に向けて視界が広がってきた。そして―。

 

ゴール。金メダルのような輝きを放つ豊穣の稲たちが、ここまで東和の文化を、歴史を、自然をめいっぱい感じながら汗をかいて駆けてきたランナー達を讃える。
子どもたちも集まって、全員で記念撮影。みんなの顔は、今日の日を迎えられた喜びに満ちあふれていた。

「それでは、今年の棚田Runは、これでフィナーレです!オンラインで参加してくれた方、ありがとうございましたー!」

みんなと一緒に東和の風景の中に入り込んでいたら、気が付いたらそんな時間になっていた。

2時間とは、早いものだ。大好きな東和のみんなの笑顔を、ずっと見ていたい―

名残惜しさを感じながら、私は静かに東和への心の旅を終えた。

 

 

こうした世の中の状況の中、東和のために何ができるだろう?

もしかしたら、諦めるという選択肢もあるのかもしれない。

でも、それでは、東和のことが忘れられてしまう。東和には、こんなにも美しい棚田と、おいしいこびりと優しい人々がいるのだ。このかけがえのない魅力を、どうにかしてみんなに届けられないか。

 

「東和が大好き」。こうした思いのもと続いているのが、東和棚田のんびりRunだ。

これは、当たり前のように見えて当たり前のことではない。東和への溢れる愛と誇りを、棚田Runという大イベントの実行へと移してしまう。この行動力、逞しさは、誰にでも真似できるものではない、東和町民ならではのものだ。

そして、この精神は、来年、再来年、そのまた将来と、きっと脈々と受け継がれていくことだろう。

 

また来年も、もう一度。

みんなが東和に集まれるようになるまで、あどべっこだがら。

 

私が書きました
まっちー

神奈川県横浜市出身、26歳。2年間の期限付きで、2018年4月から2020年3月まで岩手県に出向。現在は東京在住。ご縁あって花巻市、中でも東和町の大ファンに。