ぶどう栽培が盛んで、ワインの里として親しまれる花巻市大迫町。
グラスでいただくワインは、私たちに豊かな時間を与えてくれます。
そんなワインの里大迫で1995年に立ち上がったのが「ガラス体験工房森のくに」。
吹きガラスを制作できる溶解炉を構え、本格的なガラス体験を行なっています。
今回は、森のくにで作られるガラス工芸の魅力を貴重な制作風景も交えてお伝えします。
ガラスの技法と多彩な表現
今回お話を伺ったのは、森のくにでガラス制作を行う支配人の内田大輔さんと、内田華子さんです。
吹きガラス
大輔さんは「吹きガラス」作品をメインに制作しています。溶解炉で溶けたガラスを吹き竿に巻き取り、それに息を吹き込みながら成形する技法です。
吹きガラスの手法は大きく分けて2つあります。一つが型の中でガラスに息を吹き込む「型吹きガラス」。それに対して大輔さんが行う手法が、宙空で息を吹き込む「宙吹きガラス」です。
溶解炉の中には焼物の壺が入っており、その中にガラスが入っています。横にあるバーナーから炎が出ることでガラスが溶け、吹き竿に巻きつけることができるようになります。
所々焼き戻して成形していき、転がしながら形を整え、息を吹きかけることで膨らみます。
口を広げる作業などを終え、竿からガラスを取り外し、除冷炉と呼ばれる電気炉でゆっくり冷ましたら完成です。
吹きガラスは熱せられ柔らかくなったガラスを成形するため、冷静かつ素早い動きが求められます。
ガラスは、冷まし方や膨張率の違いなど、これをやったら割れるという制約があります。
扱いにくい素材だからこそスリルがあって面白いと言います。
現在(2021年7月取材)は新型コロナウイルスの影響で溶解炉の火を落としています。
溶解炉を撮影している際に、「火がついてないと寂しく写るんだよね」と話すお二人の言葉を聞き、1日でも早く溶解炉の火が灯ってほしいと願うばかりです。
パート・ド・ヴェール
華子さんが専攻していたのが「パート・ド・ヴェール」という技法です。金属製品の技法である鋳造法に似ており、吹きガラスが生まれる前からの古代の技法だそうです。フランス語で「ガラスの練り粉」を意味します。
粘土原型を作ったのち、それを石膏で型取り、色のついたガラスの粉を入れ、窯で焼成して溶かすことで作られます。石膏型から取り出したガラスは表面がざらざらのため、程よく研磨して完成になります。
磨けば磨くほどピカピカになりますが、マットな質感をどこまで残すかは製作者次第です。吹きガラスのように艶のあるガラスはもちろん、パート・ド・ヴェールのマットな質感も素敵です。
果樹ガラスシリーズ
大迫特産のりんごとぶどうの剪定枝灰をガラス原料に混ぜて作る、森のくにオリジナルの果樹ガラスシリーズ。こちらはりんごの剪定枝灰をガラス原料に混ぜており、りんご灰の成分が反応することで綺麗な緑色に発色しています。
自然が生み出す色とガラスの透明感が組み合わさることで、より魅力を感じます。
まだまだ様々な作品が
ガラス工芸の道を志したのは
さまざまな作品を制作するお二人に、ガラス工芸の道を進んだきっかけを伺いました。
徳島県出身の大輔さんは、ものづくりが小さい頃から好きで、将来ものづくりの仕事をしたいと思っていたそう。
映画や舞台美術の仕事をしていましたが、最初から最後まで一人で完結できるものがいいな、と思い立ち、「東京ガラス工芸研究所」でざまざまな技法を学びます。
高校生の時に徳島ガラススタジオで初めて溶けたガラスに触れ、楽しかった、という思い出がきっかけだったそうです。
神奈川県出身の華子さんも同じく「東京ガラス工芸研究所」で学んだのち、横浜の自宅で工房を開きます。
その後、森のくにに移った後は、電気炉やバーナー、サンドブラスターなどの設備を生かし、さまざまな体験を増やしていきました。
もともと工芸をやりたかったという華子さんは、北欧のクラフトを紹介する展覧会で、ガラス工芸などの今では現代工芸と言われるような作品を見たことをきっかけにガラス工芸の道に入ったそうです。
バーナーでガラスが自由自在に
今回は特別に大迫、早池峰山に自生する「ハヤチネウスユキソウ」シリーズを制作する様子を華子さんに見せていただきました。
ガラス棒の先を空気とガスを送り込むエアーバーナーで溶かし、くっつかないようにコーティングされた金属棒に巻いていきます。
この時点で綺麗な丸になっています。素人目には分かりませんが、これがなかなか難しいようです。
ハヤチネウスユキソウを描く部分を平らにして、
白と黄色のガラス棒を溶かしながら、ハヤチネウスユキソウを描いていきます。
完成したら、除冷材に入れ、徐々に冷まします。
冷めたら金属棒から取り外して、アクセサリーの金具を付け、完成です。
制作は材料づくりから
バーナーワークで使ったガラス棒ですが、この材料もバーナーで制作しています。
こちらにあるガラス棒をバーナーで溶かし、
もう一つのガラス棒をくっつけて、
伸ばしていき完成です。
完成したガラス棒はすぐに固まります。
用途に合わせてさまざまな色や模様のガラス棒を作っているそうです。
本格的なガラス工芸体験
現在、森のくにでは「サンドブラスト」「フュージング」の体験に加え、「赤ちゃんの足型体験」ができます。
サンドブラスト
絵柄を切り抜いたシールをコップやお皿等に貼り、砂を吹き付けて曇りガラス状にします。シールを貼った部分が透明に残りオリジナルデザインのグラスができます。
フュージング
色板ガラスの上に色々なガラスパーツを並べ、電気炉で焼成。ピアスやブローチ、ネックレスなどど様々なアクセサリーに。アレンジ次第でいろんな模様が作れます。
赤ちゃんの足型体験
最近は「赤ちゃんの足型体験」がとても人気だそう。
特殊な砂型に押し付けて、窪んだところに溶けたガラスを流しこむことで、赤ちゃんの足型ができます。名前や生年月日などの文字入れもしてくれます。
対象年齢は1歳位までですが、足のしわまでガラスで表現されており、とてもかわいいです。
※時期によって体験メニューが異なる場合があります。現在可能な体験については、森のくにのホームページをご参照ください。
体験はもちろん作品を見るだけでも楽しい
体験はもちろん、お二人が作った作品だけでなく、全国ざまざまなガラス作家の作品も販売されています。みているだけでガラスの表現の可能性を感じられる素敵な作品の数々。
ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
展示会情報
岩手県平泉町「うつわと岩手の工芸 せき宮」の展示会「夏の暮らし展」で内田大輔さん、内田華子さんの作品が並びます。
展示会概要
うつわと岩手の工芸 せき宮「夏の暮らし展」
岩手県西磐井郡平泉町平泉字坂下39-29
2021年7月17日(土)~7月27日(火)
10:00~18:00 水曜日定休
さまざまなガラス作家の作品や夏服なども展示・販売されます。
この機会にぜひ足をお運びください。