6月、梅雨の季節。家の近くの公園には、色とりどりに咲く紫陽花を一目見ようと人々が訪れる。
しかし、この季節になると私の心に浮かぶのは、一面深緑の東和の棚田だ。
この時期ともなれば、田植えは一段落し、幾分か成長した稲の緑が辺りを彩る。
3年前の、ちょうどこの頃だった。どこを見渡しても緑、緑、緑ーその圧倒的な風景に息を呑まれたのは。そして、懐かしくてたまらない東和のみんなが、「あなたはもう東和町民でしょ?」と、初めて会ったはずの私を、山菜でできたピザと共にまるで家族のように受け入れてくれたのは。
もう、3年も経つのか。早いなあ。
でも、大好きな東和へ帰郷できなかった去年、今年は、我慢している分少し長くも感じる。
今、東和はどうなっているんだろう?みんな元気にしてるかなあ。きっと今頃は、3年前と変わらない深緑が、見渡す限り広がっているに違いないー。
ちょうどそんなことを考えていると、嬉しいお便りが東和から届いた。
合鴨農法で体にも環境にも優しいお米を育てる、小田農園の小田美香子さんからだ。
「我が家は、やっと今日、田植えが終了です。合鴨農法の水田に陸羽132号を植えました。体験に、いわて喜楽人3人、地域おこし協力隊3人が来ました。津志田小の運動会が明日になったので、盛岡から妹と姪っ子も手伝いに来ました。野外でお昼にしました。天気がもって、よかったです。
来週は、いよいよ合鴨がやって来ます。」
ああ、私の心の中の東和の風景、そっくりそのままだ。田植えが無事終わり、みんなが相変わらず元気そうに集まっていることが分かっただけで心がほっこりする。
そして、合鴨がやって来るという次の週。
「田植え後の棚田、きれいですよ。
本日、合鴨農法のカモ放鳥しました。早速、水田の雑草を食べ回っています。キツネ対策に、必死です。」
水田を悠々とのんびり泳ぐカモ達と、日の光に照らされる田んぼ。
3年前に私が惹きつけられた景色、まさにそっくりそのままだ。
早く、ここに帰りたいな。
すると、ほぼ無意識に、私はこんなメッセージを打っていた。
「小田家の陸羽が食べてみたいんですけど、注文してもいいですか?」
画面越しに美しい風景を見ていたら、そこで育ったお米が無性に食べたくなった。
注文したのは、「陸羽132号」。小田家で昨年から栽培を始めたばかりの、ひとめぼれとはまた一味違うお米だ。
今から90年もの前、人工交配により初めて育成された歴史ある品種だが、今や栽培する農家はごくわずかとなってしまった。
小田さんは、私の注文を聞くや、すぐにこの珍しいお米を届けてくれた。
これが、小田さんご一家、東和の皆さん、そして合鴨たちが一生懸命育ててくれたお米。
早速2合分をすくって、炊いてみる。炊き込みご飯もいいけど、やっぱり最初は白米だ。
炊き上がったお米がこちら。白くてつやつやしたお米をしゃもじですくうと、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
一口、ぱくっ。自然な甘さが口の中に広がる。お米本来の味だけで食欲がどんどんわく。
おかずを用意しようと思っていたのに、気づいたらお米だけで茶碗一杯ぺろっと平らげてしまっていた。
まだもっと食べたい。おわかり。
次は、同じ岩手の小形牧場ビーフハヤシとともに。
うん、これもいける。お米だけ食べても幸せだが、こうした丼物にもよく合う。
ごちそうさま。どれだけ美味しかったのかは、2杯があっという間に無くなってしまったことから想像してほしい。
ああ、満腹。
まだまだ本当に帰れないかもしれないけど、東和のお米をお腹に入れたら、心だけでも東和の緑とみんなの笑い声に包まれているような気がした。
今年の秋には、どんなお米が出来るだろう。
その時には、きっと、黄金色に輝く棚田を見に行けますように。