まきまき花巻味わいたい夏から秋 花巻ならではの味
夏から秋 花巻ならではの味
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まもなくお盆。大人たちはお墓参りや親戚づきあいなどで忙しい時期だったのかもしれないが、私が子どもの頃を思い出すと、普段遠くに住んでいる親戚が久しぶりでやってきたり、お盆ならではのご馳走が食卓に並んでいたりして、夏休み中ということも相まってテンションあげあげだった気がする。

暑い中墓参りを終えて家に帰ると、テレビの高校野球を見ながら親戚たちはビールの栓を抜く。テーブルの上にはザルいっぱいに塩を振られた枝豆。そしてこの時期忘れちゃいけない夕顔の煮付け。

この時期あまりに当たり前の料理なので、大人になるまで知らなかったが、実は夕顔をこうやって食べる習慣は全国的にも珍しいのだそうだ。よく冬瓜と間違えられるが、かんぴょうの原料に用いられる夕顔は食感がまるで違う。カツオの節と煮たり、ピリ辛の味付けにしたり、その家によって味付けが違ったりするのも、久しぶりに故郷に帰ってきた親戚たちにとっては懐かしい味だったのだろうと思う。

そして小腹が空いたら味噌焼きおにぎり。

これまた、どうやら当地独特のものらしい。全国的には焼きおにぎりといえば醤油味なのだと某テレビ番組で知ったが、花巻(岩手全般?)で焼きおにぎりといえば味噌だ。おそらく美味しい味噌がある土地柄だからなのではないかと思うのだが、これなら小腹が空いた人から何個でも食べることができる。年中食べられるおにぎりではあるけれど、私個人の思い出の中ではお盆のご馳走のひとつだ。

子ども達にはおばあちゃんの味である雁月や黒糖だんごであるきりせんしょが供される。

要は黒糖を使った蒸しパンなのだが、丸い形を月に見立て、ゴマが月の前を横切って飛ぶ雁という見立てだから雁月。なかなか洒落たネーミングではある。こればかりは母の味というよりおばあちゃんの味。そういう人が多いのではないか?

雁月やきりせんしょは9月のお彼岸にもよく食べられているのだが、なぜ法事関連の時なのかいまだにわからない。特別な日の特別なご馳走という印象だけが、線香の香りと味のコントラストとともに残っている。

 

秋の味覚の代表格はなんといっても芋の子汁。

これも鶏肉が入った醤油味だったり、豚肉が入った味噌味だったり、家々によってつくりが違う。ダシが効くきのこも、ボリやアミノメなどおじいちゃんやお父さんが採ってきたものを使ったり、買ってきたマイタケやシメジを使ったり、芋の子(里芋)だけではなく秋の味覚がふんだんに使われる。

ちなみに山形や宮城の芋煮との相違を上げられることが多いが、実は料理のカテゴリーそのものが違うということを数年前に知った。山形で芋煮定食を注文したところ、なんと芋煮の他に味噌汁がついてきたのだ。要は芋煮は鍋物という扱いなのだろう。当地の芋の子汁はその名の通り汁物。根本が違う。

きのこといえば、バクロウご飯も秋には外せない味覚。

バクロウとは一般に香茸と呼ばれる香りを楽しむきのこで、これを使ったバクロウご飯の香りもまた秋の風物詩だ。

この写真の左側に並んでいる黒いきのこがバクロウ(きのこ屋おいよさんにて)。最近はなかなか食べる機会がなくなってきたから、余計に懐かしい味覚。

もっと秋が進み、寒さを覚える頃に外せないのがひっつみだ。

一般的にはすいとんに近いが、イメージではもっと野生的。だんごを手で「ひっつめ」て投入することからひっつみと言われる通り、すいとんより厚くだんごに近い。この味というか、ダシの決め手も鶏肉ときのこだ。

 

夏から秋にかけて、思い出の中から花巻ならではの味をいくつか挙げてみた。バクロウご飯や夕顔の煮付けはなかなか売っていないかもしれないが、他のものはスーパーでも売っているし、芋の子汁やひっつみはいくつかの店でも食べられる。花巻の旅の思い出に、花巻ならではの味をぜひどうぞ。

私が書きました
北山 公路

出版プロデュース、企画・編集のフリーランス。
花巻に生まれ育ち、今も花巻在住。東京の出版社の仕事と地元の仕事半々を花巻でこなす。2017年春から「花巻まち散歩マガジン Machicoco」を創刊し、隔月発行継続中。