温かな日差しと、颯爽と吹き抜ける風。
ようやく岩手の長い冬が明けた。もう、5月も始めなのだ。
5月3日~4日、土澤アートクラフトフェア。普段は人通りのまばらな土沢商店街も、この日ばかりは300を超える店舗と、ここでしか買えないオリジナル商品を求めるお客さんたちでにぎわう。
岩手のみならず全国から色とりどりの作品や食べ物が集まるため、商店街に足を踏み入れた瞬間は「ここはどこだろう?」と疑いたくなる。しかし、岩手銀行の角を曲がりその奥へと進めば、この地が東和であることが一目にしてわかる。
東和のうんめえもん、おもっしぇもんが、この一角でお土産品として大きな一歩を踏み出す。
東和で東和のお土産を売る。難しいことでも何でもないように聞こえる。
しかし、ここまでたどり着くには、
「東和らしさって何だろう?」
という問いに立ち向かう、試行錯誤の日々があった。
時は雪もまだまだ残る2月。
「東和といえば、というお土産を作りたい。」
こうした思いを持った地元の方々が、会議室に一堂に会した。
住み慣れたこの地と改めて向き合い、「東和らしさとは」という原点に立ち返って考える。
漬物、味噌、梅干し、りんご、棚田、泣き相撲―。発想は尽きなかった。
デザイナーや福祉作業所、醸造所にパン工房。それぞれの技を持ったプロたちが、「自分にできることは何だろう」という思いを胸に議論にのめりこむ。
この過程では、「棚田ボックスというのも面白いかも」というユニークなアイデアも出た。
以後3度に及ぶワークショップで考えに考えた末に生まれた、東和をぎゅっと詰め込んだお土産たち。
ピーマン味噌やきざみ漬けは、「かれえ父ちゃん」。
ほろ酔い柿やがんづき、甘酒や米粉パンは「あんめえ母ちゃん」。
梅漬けや梅味噌は、「すっぺえ兄ちゃん」。
ばっけ味噌や味噌大根は、「しょっぺえ嬢ちゃん」。
この一家を取り囲む、箸置きのかっぱやひつじたち、絵葉書の中のカエルたち、ガーデンプレートのかぶと虫―。
最初はばらばらだったメンバーが「東和うんめえ家族」として、一丸となって晴れて店先に並んだ。
「あんめえパンとしょっぺえパン…どっちも買って行っちゃおうかな。」
「ガマズミとナツハゼのゼリーですって。珍しいね。」
「かっぱさんとひつじさん、猫ちゃんもいるよ。お家に連れて帰るの、どれにする?」
個性豊かな東和うんめえ家族のどれを仲間にするか、お客さんはひとつひとつに目を凝らして考える。
悩んだ末に選んだ商品を、老人保健施設「華の苑」の方々が一生懸命つくった新聞紙のバッグに入れて渡す。すると、
「あら、かわいらしい」
とお客さんの顔もほころぶ。
ワークショップのアイデアでもある、ちょっとお得な「農旅お土産セット」も好評だ。
お土産品や新聞バッグをつくった方たち、それを売る私たち、そして東和をお家に持ち帰ってくれるお客さんたち。それぞれが、こうして家族のようにつながっていく。
棚田、味噌、泣き相撲、かぶと虫、梅干し―。その全てが東和らしさだ。
しかし、一番「東和らしい」のは、どこから来た人でもお帰りなさいと迎え入れる、家族のような温かさ。
新聞バッグを嬉しそうに提げて帰っていく人たちを見ているうち、「東和らしさって何だろう?」の本当の答えが、やっと見えてきたような気がした。
一口食べれば、家に飾れば、ふっと心に家族の懐かしさ。
こんなお土産を新聞紙のかばんに詰めて持ち帰ることができるのは、全国どこを探しても東和町だけだろう。