ルンビニーアート、そのはじまり
1968年、石鳥谷町中寺林に「ルンビニー学園」が開所しました。知的障がいを抱える子供たちが生活する入所施設です。その5年後の1973年、成人入所施設「ルンビニー苑」が開苑しました。
1988年、当時苑長であった三井信義さん(現 光林会理事長)はアートに興味があり、ルンビニー苑の利用所さんと陶芸を始めました。当時は精神薄弱者更生施設と呼ばれ、施設の利用者さんたちは、生活を送るための訓練として農業をし、作業療法的な意味合いで陶芸や織りもの、刺し子などをしていました。そういう訓練の合間の余暇として、個人的に絵を描いて過ごす方はいましたが、決して、創作活動といえるほど豊かな環境ではありませんでした。画材や紙がなくなってしまうことがあっても、利用者さんがどうにか自身で集めてきたチラシの裏や鉛筆などで、細々と、でも、淡々と表現し続けました。
淡々と生み出されていた作品に美術的な知見を求め、1998年板垣崇志さんが招かれます。利用者さんの作品を初めて見た板垣さんは、大学で学ぶ美術とはまったく異なる過程をたどって生み出された作品たちに、驚きと衝撃を受け、これら作品にはなにか重大な想いや意味がこもっている!と強く感じたそうです。
それから板垣さんは施設内で美術クラブを担当し、利用者さんたちとの交流を深め、その想いを見つめ続け、2007年にるんびにい美術館の開設にアートディレクター(芸術監督)として携わります。
現在は、るんびにい美術館2階のアトリエで、10名ほどの利用者さんがアーティストとして創作活動を行っているほか、デイセンターでも創作の時間を設け、さまざまな方が絵画や織り、工芸に親しんでいます。
『ルンビニーアート』が周りの人が色々考えるきっかけや入口になれば、、、と板垣さんは語ります。「かつて閉鎖的な場で生活せざるを得なかった障がいのある人たち。今でも、施設で生活している方たちは、一生で出会える人の数が、健康な私たちと比べて極端に少ないです。『ルンビニーアート』を通じて、障がいを抱える方が、一市民として色々な人と交流したり、一県民として活躍したり、その活躍を知ってもらい、障がいのある人もない人も、みんながボーダーレスであることを実感できるような社会になってほしい」と『ルンビニーアート』への想いを話してくださいました。
作家さんたちの制作風景
星が丘にある るんびにい美術館 の2階に『こころと色の工房 まゆ~ら』というアトリエがあります。
ルンビニーアートが生まれる場所です。
先日、アトリエにお邪魔し、アーティストさん達の制作風景を取材させていただきました。
佐々木 早苗(ささき さなえ)さん
ボールペン、マジック、刺繍と、数か月から数年に渡ってひとつの仕事に集中しては、飽きてきっぱりと次の仕事に移行するという流れで、多様な創作を行っている早苗さん。今はマジックでの創作の時期なのだそう。
早苗さんは元々、作業療法の一環として機織りをするようになり、それから絵を描くようになったのだとか。機に張った経糸に、緯糸が重なっていくように、早苗さんの絵を近づいてよーく見てみると、細かな縦横の格子で描かれていることが多いです。
千田 恵理香(ちだ えりか)さん
私の姿を見ると、真っ先に前に出てきてくださり、利用者さんであるアーティストの方々だけでなく、職員さんたちも含め、アトリエの方たちを紹介してくださいました。職員の方々から「紹介ばかりでなく、恵理香さんの作品見せないの?」と言われると、少し照れた様子で恵理香さんの「さをり織り」を見せてくださいました。普段は「さをり織り」だそうですが、今かかっている機には裂き布も混ぜて織ってあり、織りトークが弾みました。
富澤 富士子(とみさわ ふじこ)さん
出会った人の顔を描き続けている富士子さん。「平川さん、平川さん」と言いながら、ササーッと私の顔を描いてくださいました。私のトレードマーク?のメガネ姿もバッチリ。
似里 力(にさと ちから)さん
以前、草木染めの糸を販売していて、その糸を毛糸玉のように巻いていく作業をしていた時、偶然絡まってしまった糸を切って結びなおしたことがありました。その後も糸を巻く作業をしていると、力さんは職員さんの目を盗んでは糸を切って結ぶことを続けていたそう。最初は、売り物にする糸玉なので、切れているのは良くないから、と職員さんたちも止めていたそうですが、それでもやり続ける力さんの様子を見て、それが力さんにとっての表現なのかもしれない、やっても良いよ、と考え方を転換し、止めることをやめたところ、“糸を切っては結ぶ”を繰り返すことが力さんの仕事となり、アート表現になりました。
畠山 千秋(はたけやま ちあき)さん
カラフルな糸で、針先に集中して、たくさんの刺繍をしていました。この日はチョコレートパフェの絵柄になった刺繍を見せていただきました。布地いっぱいに刺繍がほどこされた作品が、カゴいっぱいに入っていました。
古川 美記子(ふるかわ みきこ)さん
るんびにい美術館にある画集の中から、描きたいものをコピーし模写しています。アート支援の職員さんと相談しながら、最初はスケッチブックに描いていましたが、最近は、キャンバスに鉛筆で下書きしたあと、水彩色鉛筆などで重ねて描く方法なども試みています。様々な画材を試してきて、表現方法を試行錯誤しながら、より美記子さんにしっくりくる描き方を探しています。
美記子さんは「人のあたり、顔のあたりが難しい」と話しながら、制作している作品を見せてくださいました。
小林 覚(こばやし さとる)さん
伺ったときは、見慣れないお客さん(私)がいたせいか、創作活動の気分ではなかった様子の覚さん。
「板垣さんから、ルンビニーアート展に向けて、『伝承ラーメン』って書いたと聞きましたよ」とお話すると、ふっと表情が和らいだ覚さんでした。
覚さんの大好物!『伝承ラーメン』
道の駅「石鳥谷」のお食事処りんどう亭には、小林覚さんの大好物があるんですよ!と板垣さんが教えてくださいました。
それは、伝承ラーメン!
覚さんは、普段はいろいろ好きなものがあり、様々なものを食べられるそうですが、「りんどう亭に来たら伝承ラーメン」は鉄則だそう。
板垣さんが他のメニューを勧めても、伝承ラーメンとどんぶりのセットを勧めても、覚さんは「伝承ラーメン!」の一択。
私も食べてみましたが、あっさり醤油味と、トロトロのチャーシューが麺にマッチして、とても美味しかったです。
道の駅「石鳥谷」のりんどう亭を訪れた際には、ぜひご賞味あれ。
【ルンビニーアートコラボレーション in 道の駅「石鳥谷」】
さて、覚さん一押しの伝承ラーメンに、覚さんの作品「サトル文字」が印刷された特別な海苔がつくルンビニーアートコラボが12月24日から道の駅「石鳥谷」で開催されています。
道の駅「石鳥谷」内にあるお土産物産館 酒匠館、産直 杜の蔵やトイレ休憩施設がルンビニーアートでカラフルに装飾されたり、複製画が展示されたりしています。4か所のスタンプラリーを集めて回ると、オリジナルの景品がもらえますよ。※景品は無くなり次第終了とのこと
取材させていただいた似里力さん、佐々木早苗さんの作品を発見!
隣接する石鳥谷図書館では、ルンビニーアートの原点とも言える陶芸作品や複製画を展示しています。
道の駅「石鳥谷」でのルンビニーアートコラボは3月17日まで開催されていますので、ぜひ遊びに行ってみてくださいね!