「花巻まつり」とは、400年以上の歴史と伝統を誇る、花巻を代表するお祭りです。
優雅な花巻ばやしにあわせて繰り出される華麗な風流山車、2015年には神輿の数【114基】でギネス世界記録を達成した勇壮な花巻神輿、伝統ある鹿踊り(ししおどり)、神楽権現舞(かぐらごんげんまい)、花巻ばやし踊りなど、9月の秋まつりシーズン3日間かけてさまざまなパレードが繰り広げられます。
その中でも今回は「山車」に焦点をあてて、お伝えしていきたいと思います。
花巻まつりの花形「山車」
もともとは花巻開町の祖・北松斎の時代に人々が「山車」を作り、花巻の町を練り歩いたのが始まりといわれています。
明治時代ころからは、京都祇園祭の鉾(ほこ)に似た「屋形山車」を出すようになり、高さは13メートル以上、東北屈指の山車として名声を馳せました。
現在の山車は“曳く(ひく)”形となっていますが、当時は“担ぎ”だったという点も驚きです!遠方からもたくさんの担ぎ手が集まるほどの人気だったといいます。
明治時代末期から大正時代ころになると、町に電線が張り出されるようになり、高さのある屋形山車から丈の低い優雅な「風流山車」と呼ばれる様式へと移行しました。
現在では、地区ごとに12台の「風流山車」が制作されています。毎年、各団体が粋を凝らして華麗さを競い合う、豪華絢爛な風流山車。そしてその真価が発揮されるのは、夜です。
花巻まつりの風流山車は、灯りとしてアセチレンガス灯、本物の火を使います。これは全国的にも珍しく、電球やLEDとは違った、ゆらめく炎が見るものを魅了します。
やはり、花巻まつりの花形は「山車」!
そして各団体、特に古くから山車づくりをしている地区では、その自負があります。
個性あふれる山車づくり
風流山車の組み方は、「生け花」を基本としています。岩山と呼ばれる芯を中心に、上部には桜や藤の花、そしてメインとなる人形、周りには、岩、波、牡丹、季節の花などを飾り付け、仕上げられます。
山車には、いわゆる「表」と「裏」があり、それぞれ「風流」と「見返し」と呼ばれます。風流と見返しは別々の題材で制作され、例えば、軍記物や歌舞伎の名場面、花巻の歴史、おとぎ話、時事ネタまで幅広く、団体ごとにやはりカラーがあります。
お盆を過ぎたころ、いつのまにか市内12ヶ所に巨大な山車小屋が組み上げられ、本格的に作業が始まります。今回その山車小屋を取材させていただきました。
山車づくりの作業は、分業制。早い工程ではもう7月頃には作業が始まります。団体ごとに細かな作り方や素材は違えど、それぞれの工程で長年担当されているプロフェッショナルの方がいて、かなり高度で、独特な技術が受け継がれていると感じました。
特に「牡丹」は、和紙でできた花びらを染めて、乾かして、絞って(曲線を作り出す)、1枚1枚ふわっと立体的になるよう組み立て、丈夫にするために蝋を塗って、乾かして…と相当、手がかかっています。
祭り直前の緊張感あふれる山車小屋にて ――
風流山車が完成し、初めてアセチレンガス灯に火が灯るところに立ち会うことができました。
シューーという独特な音と、1つずつ灯っていく炎、その炎に灯され闇夜にぽわんと浮かび上がる風流山車、とても幻想的で美しい光景でした。
祭りにかける、花巻っ子
県外に出た花巻っ子は、お盆でなく花巻まつりに帰ってくる、といわれます。
また、花巻っ子の人柄でしょうか、なかなか予定が立てられなかったためほぼアポなしで取材にお伺いしたのですが、どこも快く取材に応じてくださり、そればかりか山車について知識のない私に丁寧に教えてくださいました。このフレンドリーさったら、ない!
そして、どの団体もつながりをとても大事にしています。
以前住んでいたから、以前勤めていたから、お世話になったから、など、実際、現在はその地区に在住・在勤でないけれど参加しているという方も多いようです。
印象に残っている言葉を3つ紹介します。
◆「うちが一番だけどな!」
どこの団体でも最後にはこうおっしゃいます(笑)各団体、意識し合っていて、ライバル心も強いのですが、「○○の花は綺麗」「人形の顔見ればどこだか分かる」と、お互いに認め合ってもいます。
◆「当日はやることない。壊しにいくようなもんだ」
(実際に倉庫がなければ全部捨てるところも…)
◆「みんなで毎晩集まって作るのが楽しい。それが祭り」
当日はやることない、ことはないのですが(笑) 各団体、本当に仲が良く、当日までの制作の過程を楽しむ、まさに地域コミュニティがありました。
当初、参加方法があまりオープンにされていないため、入りにくい祭りかと思っていました。今では、ちょっとした人見知りのようなものか、と理解しています。初対面は少なからず構えてしまうから、入るのは紹介の方がいい、でも仲良くなったらもう仲間、こんな具合です。
花巻まつりは心の中に
祭りの後、空になった山車小屋と、それが解体されていくところを見て、何とも言えない気持ちになりました。
そして、あれだけ毎日集まっていたのに…心にぽっかり穴の開いたような、寂しい気持ちになったものです。今でも花巻ばやしが幻聴で聴こえてきます…(職場で誰かが流していただけだと思われます)。
花巻まつりは、毎年9月の第2金・土・日。
1年後、ですが、そう遠くはありません。
とある山車団体では、笠越(かさこし※)の時点で既に翌年の題材がほぼ決まっていたり、1月には実行委員会も始動しています。
花巻まつりの花形は「山車」という言い方をしましたが、逆に言うと、山車が盛り上がってこその「花巻まつり」です!ご期待ください!
そして、ぜひ皆さんもこの空気を感じに、花巻にいらしてください。
※直会(なおらい)や鉢洗い、打ち上げとほぼ同意。前夜祭でそろえた笠(笠揃え)を壊す意味で、「笠壊し」が変化して、こう呼ばれたよう。