まきまき花巻体験したい私の東和物語の、その続き。〜ワラビとノビルとお味噌と農泊「徳さん」〜
私の東和物語の、その続き。〜ワラビとノビルとお味噌と農泊「徳さん」〜
20 まき
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土沢アートクラフトを全力で満喫した私。

でも、東和での思い出は、そこでは終わらない。私の東和物語には、続きがある。

 

夕日が傾き、さっきまで賑わっていた土沢の商店街にも片付けの軽トラックが行き交う。

そんな街を少し名残惜しく見送りながら、夜には東和総合支所のほど近くにある「女ツ木(みづき)」さんへと向かった。

 

そこで出てくるのは、東京では絶対に食べられない、東和のお母さんの味の数々。

「せっかく来たならこれだけは食べていきなさい!」

特に目を引いたのは、これ。ワラビのお煮付けだ。

そっか、岩手はちょうどこの季節か。
山菜ならではの本来の風味を残すため、味付けはさっぱりと。一口食べれば、東和の緑、自然の味が口いっぱいに広がる。

「明日の朝、ワラビ採りをするけど、一緒にやる?」

ワラビの香りを楽しんでいると、これから宿泊する予定の「農泊徳さん」を切り盛りする菅野和さんが声をかけてくれた。

「え、ワラビってどこに生えてるんですか?」
「うちの裏の田んぼの土手!」

家の庭や、味噌加工工房に行くまでの途中の道。ここ東和では、何でもないところにお宝が眠っている。
もちろんスーパーマーケットにも買い物には行くけれど、まずはこうした身近な地域資源を余すことなく使うのが、昔から伝わる農家の母ちゃんたちの知恵だ。

東和にあるもう一つの実家とも言える「農泊徳さん」で一晩を過ごした翌朝、私はワラビ採りへと向かった。
和さんの旦那さん、菅野徳主さんが私の師匠だ。ここに泊まれば、東和の暮らしのプロであるご夫婦に、山菜採りでも味噌の仕込みでも何でも教えてもらうことができる。

お家の裏の小高い丘を少し登れば、面白いくらいニョキニョキとワラビが生えている。

それを根元から、ポキッ、ポキッ。あまり大きく葉を広げたのは硬いので、首をもたげた程度のちょうどいい大きさのものを選んで採るのがコツだそう。

あっ、あそこにも生えてる。あっ、あっちにはもっといっぱいある。

夢中になってポキポキ採っていたら、山ほどのワラビを持ち帰ることができた。

 

 

しかし、採って終わりではなく、まだまだ先は長いのだそう。

お次は、穂先のボンボコ取り。2,3本ずつ手に取って、穂先の苦くてごそごそする部分を、両手で摺って丁寧に落としていく。

 

ホー、ホケキョ。ホーホケキョ。

ケロケロケロケロ…

聞こえるのは、緑豊かな東和の山の中で幸せそうに歌う鳥たちやカエルたちの声だけ。

そんな自然の音に耳を澄ましながら、透き通った青空の下で一心にワラビと向き合う。

中々手間のかかる作業ではあるけれど、あっという間に時が過ぎる。ビルと人に囲まれた都会では絶対過ごすことができない、なんて満ち満ちたときなんだろうか。

「よくやってくれたね〜。ありがとう!」

気づけば、全てのワラビの作業が終わっていた。和さんにも褒めてもらい、ちょっと誇らしい。

しかし、ここではまだ終わらない。お次は、大きな鍋で湯がいてアク抜きの作業だ。

10分ほど茹でて、そろそろ食べられるころかと思い一本かじってみると思いがけず、苦い。お湯に通して終わりではなく、灰や重曹をかけてしばらく置かないと、えぐみが抜けないそうだ。

こうしてやっと、おいしく頂くことができるようになる。

山菜は、採ってからが本番。昨晩私が食べたわらびのお煮付けも、決して当たり前のものではない。身の回りにある地域資源を生きる糧とするために知恵を凝らした、東和の先人たちの努力の賜物なのだ。

 

お鍋に灰を入れて山菜の作業がひと段落すると、ちょうど田んぼの作業に出かけていた徳主さんが帰ってきた。

そこでお土産に持って帰ってきたのが、ノビルだ。白くて小さい球根がついている野草で、田んぼの土手によく生えているそう。

これをよく洗って、根元の部分だけを切り落としてから、和さんの自家製味噌をつけて頂く。小さいエシャレットのような感覚で、パクパク食べられる。

うめ味噌、ゆず味噌、どちらをつけても懐かしい東和の味だ。

ゆっくりと流れる東和の時間に身を任せていたら、気づけばもうお昼。名残惜しいけど、もう行かなきゃ。

思い出を胸いっぱいに、私は午後発の釜石線へと乗り込み、次の目的地である遠野へと向かった。

土沢アートクラフトの賑わい、東和の光を浴びて育ったワラビの香り、初めて食べたのになぜか懐かしいノビルの味。

静けさの中に広がるウグイスやカエルの合唱、いっぱいに広がる青空と緑、そして何より、2年ぶりに会った東和のみんなの笑顔。

これが、私の東和物語。

この物語には、またきっと続きがあるのだろう。

釜石線に揺られて土沢駅で降りれば、その先にはいくつもの出会いと物語がある。

 

私が書きました
まっちー

神奈川県横浜市出身。2年間の期限付きで、2018年4月から2020年3月まで岩手県に出向。現在は東京在住。ご縁あって花巻市、中でも東和町の大ファンに。