世界41カ国から約1万本が集う、世界最大級のワインコンペティション「AWC VIENNA 2025」。銘柄も産地も一切伏せられたブラインド審査の果てに、遠く離れた日本・岩手のワインがその名を刻んだ。
最高賞のゴールドに輝いたのは、エーデルワインの「ラタイ バレルエイジド 2021」と「シルバー ロースラー 2023」。

エーデルワインは、岩手県花巻市大迫(おおはさま)に拠点を置くワイナリーで、地元農家とともに大迫のテロワールを表現するワイン造りを続けている。
故郷へ投げた問い
「オーストリアの品種を、本場でどう評価されるのか知りたかった」
エーデルワインの醸造責任者・女鹿将瑛(めが まさてる)さんは、今回の出品理由をそう振り返る。
受賞した「ラタイ」と「ロースラー」は、いずれもオーストリアを原産とする品種だ。
大迫とオーストリア。ワイン文化を通じて長年交流を深めてきたこの二つの土地の縁が、かつて海を越えて苗木を運んできた。とりわけ「ラタイ」は、本国オーストリアでも栽培面積わずか0.1%という希少種。日本で商品化しているのは、現在エーデルワインのみである。
2013年、大迫の地で始まった新たな挑戦。主流ではないこの品種が、大迫の風土にどう馴染んでいくのか。
その答えを探す歩みは、造り手が“故郷”へと送った、一通の手紙のようなものだったのかもしれない。
予想外の金賞、そして気候という現実
実は、ラタイは社内で突出して期待されていたわけではなかったという。同社のファーストラインである「ゼーレ オオハサマ」シリーズにも選ばれていない。「正直、どう評価されるか未知数でした」と女鹿さんは語る。
しかし、結果はゴールド。本場の専門家たちは、大迫の風土が引き出したラタイのポテンシャルを、確かな品質として認めたのだ。
一方の「ロースラー2023」には、近年の厳しい気候変化との闘いがあった。
2022年以降の猛暑と降雨。
2023年には、ロースラーの収穫期が例年より10日近くも前倒しになるという異例の事態に見舞われた。酸の低下を防ぐための迅速な決断である。
「大変な思いをして収穫してくれた農家さんのおかげです」
女鹿さんの言葉には、自然の猛威に立ち向かい、共にブドウを守り抜いた人々への敬意が滲む。

オーストリアから大迫へ
かつて運ばれた小さな苗木は、岩手の厳しい冬を越え、夏の陽光を浴びて、この地ならではの個性を纏うまでになった。
エーデルワインが歩んできた60年。その歴史のなかで、オーストリア品種と向き合い、対話を続けてきた時間は、いま一本のボトルとして静かに結実した。ウィーンからの報せは、その歩みが間違っていなかったことを、優しく照らし出している。
冬、大迫の畑。
次の季節の目覚めを待ちながら、ブドウの木々は静かに、そして深く眠りについている。

ラタイ バレルエイジド 2021(フルボディ/辛口)

完熟したラタイを使用し、フレンチオーク樽(新樽比率25%)で約1年間熟成。熟したブラックベリーを思わせる黒系果実に、コットンキャンディのようなほのかな甘香が穏やかに重なります。きめ細かなタンニンが全体を包み込み、ドライななかに豊かな果実の余韻が広がる一本です。
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シルバー ロースラー 2023(ミディアムボディ/辛口)

樽で1年半の時をかけて熟成。カシスやスパイスを彷彿とさせる複雑なアロマと、上品な樽のニュアンスが調和します。心地よい酸味と渋みのバランスが絶妙な赤ワインです。
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今回お話を聞いたのは

今回話を聞いたのは、株式会社エーデルワイン 製造部 醸造技師長の女鹿将瑛(めが まさてる)さん。2009年入社以来、長年現場でワイン作りに心血を注ぐ。令和7年度より現職。「果実が主役。樽香はその上にふわっと重なるくらいが理想」と語る言葉からは、原料と向き合うまっすぐな姿勢がうかがえる。本人のおすすめは「ゼーレ オオハサマ メルロー 2020」。




