「東和びと」はじめます
みなさんこんにちは!東和地域の地域おこし協力隊、柏谷恵です。
早いもので、花巻市東和町に移住し、9ヶ月が経とうとしています。
2024年、東和で過ごすはじめての冬は、1月下旬の現在雪が思いのほか少なく、びっくりしています。こんなに雪がないのは珍しいそうですが…
数か月過ごしてきて東和の良さをたくさん実感していますが、あらためて、皆さんの人柄がとても素敵だな、と感じています。
なんというか、ただ優しいだけではなく、大らかというか、いろんな人や物事を受け入れる懐の深さがあると思います。移住者にはありがたいですね。
「皆さんひとりひとりが、このまちの良さの“核”部分なのかもしれない」
「もっと色々な方とお話ししたい」
そう感じている今日この頃です。
ということで今回から、そんな東和の魅力的な人に焦点を当て、掘り下げていく企画「東和びと」をスタートしようと思います。
皆さんの素敵なお人柄、そして東和の穏やかな空気感を感じていただければ幸いです。
まず第1回目は、東和町の田瀬で活動している彫刻家・菅沼緑(すがぬま ろく)さんです。
私がアート関係に興味があるため、紹介していただきました。
それでは、本編へどうぞ!
↓ ↓ ↓
田瀬での活動は2011年から
菅沼緑さんは、もとは東京生まれ。その後、神奈川県や北海道等を経て、ここ東和町に2000年にやってきました。
––柏谷(以下略):最初から田瀬で活動していたわけではないのですね。
菅沼緑さん(以下緑さん)「最初は、東和町北成島で活動していました。東和町に来る前は神奈川県藤沢市にいたのですが、都会の生活が嫌だったので、どこかIターン支援で受け入れてもらえるところはないかと、いろいろな場所にメールを送りました。そしてすぐに返事が来たのが東和町だったのです。それですぐに東和町を訪ねて、北成島の家を紹介してもらいました。そこはガレージがアトリエとして使えるし、搬出入がしやすくて良かったですね」
その8年後の2008年、田瀬に来る機会があってすぐに気に入り、3年後に晴れてこの地にアトリエを構えることになったそうです。
––田瀬のどこに魅力を感じたのでしょうか?
緑さん「やっぱり景色ですね。初めて来たのが夏の日だったのですが、田瀬振興センターの横に見える砥森山(ともりやま)が夕日に染まって真っ赤になっていて、その景色を見て決意しました。よく散歩していますが、飽きないですよ。いつも違った表情が見られる。湖もあって、開放感があるし、気持ちいいですね」
お話をお聞きしたアトリエの一室から、田瀬湖が見えます。その日は快晴だったこともあり、部屋は明るい光でいっぱい。そして何より、とても静かです。
––今日はお天気が良くて気持ちいいですね。湖が見えるし、明るくて静かで、とても素敵なアトリエです。
緑さん「とても気に入っています。夕暮れなど、時間によっては、モノがとても美しく見えます」
作品が生み出される場所へ
さて、どんなところで作品たちはつくられているのでしょうか。
制作場所に入ってびっくり。工場かと見間違えるほどの機械の数々!
緑さん「自分は機械マニア。どんな機械を使えば、自分のつくりたい作品ができるか、試行錯誤するのが好きなんです」
機械だけではなく、工具や塗料、なんでも揃っているように見えます。
また、作品を収納している倉庫にもお邪魔し、作品を手に取って見ることもできました。
緑さんの作品といえば、カラフルな「色」、そして単純かつユニークな「カタチ」。
緑さん「空洞にすることをルールにして、作品をつくっています。最初は無垢材から切り出してつくっていのですが、重くて、運べない。自分でつくって、自分で運べるものでないと」
カタチをつくるための周囲の木材は、薄くて曲げやすいベニヤ板だそうです。
自由自在にいろんなカタチを創造できる…カタチの魔術師!だと思いました。
ちなみに色合いは、カタチをより強調できると考えて、カラフルにしているのだそうです。
作品について聞いてみました
––この作品たちは、なにかテーマはありますか?伝えたいことや、カタチに理由はあるのでしょうか。
緑さん「特にテーマや理由はありません。思いついた、好きなカタチというだけです」
創作する=なにか理由がある、伝えたいことがあると思い込んでいた私。正直シンプルすぎる回答にびっくりしました。
––鑑賞する方に、こう感じてほしいなどはありますか?
緑さん「うーん。観る方に求めることは特にないから難しいけど…。強いて言えば、フィーリングが合えばうれしいかな。音楽だってそうじゃないですか。この曲は好きとか、この曲は合わないとか、人それぞれに感じ方がありますよね。音楽を楽しむように作品を感じてほしい。音楽を聴くように、作品も感じて、好きだと思ってもらえたら嬉しいことです」
「彫刻作品を、音楽のように楽しむ」。彫刻だけではなく、ほかのアート作品についてもそんな風に考えたことのなかった私は、またしても衝撃を受けました。
緑さん「“すべての芸術は、音楽の状態に憧れる”という言葉があります。音楽は、聴けばわかる、伝わる。彫刻作品も、そんな風に感じてほしいですね」
理屈ではなく感覚的に理解する…その部分を大切にする。何かと頭でっかちになりがちな自分にとっては、とても大切な概念のように感じました。
––もし音楽が奏でられたら、音楽で表現したいと思いますか?
緑さん「思わないです。彫刻という表現方法が好きだから。何ごとも、好きだからやる。好きだからこそ、作品に自然と魅力があふれ出てくるのだと思います」
想いの根源にある「さくらが丘パルテノン」
緑さんは現在、東和町で若手アーティストのアトリエ兼居住スペースをつくりだせないか、ということを考えています。
緑さん「アトリエがなくて困っているアーティストは全国にたくさんいる。そして地方には空き家やもう使われなくなった施設などがたくさんあり、活用しないともったいない。
耐震基準などの関係で、簡単にとはいかないけれども、ここでもそういった取り組みはできるはずです」
そういった想いの元となっているのは、昔の記憶だそうです。
緑さん「自分はかつて、東京都豊島区にあった、芸術家たちが住むアトリエ付き住宅群“さくらが丘パルテノン”というところに住んでいました。父も彫刻家だったので、そこで暮らしながら創作活動をしていました。
アトリエ部分が家の多くを占めていて、居住スペースは4畳くらい。鍋や調味料もみんなでシェアするような感じで、物を貸したらみんなのところを一周して返ってくる、みたいな環境でした。だからプライベートはないです。
でも、みんなで芸術について語ったり、助け合ったり、分かち合っている感じがよかったんですよね」
当時の記憶が、今構想している若手のアトリエ兼居住スペースの場所づくりに繋がっているそうです。
協同して暮らしを営む…小さな「ムラ」のようなイメージが湧きます。人と人の繋がりが希薄になりがちな現代において、とても豊かな暮らしに思えますね。
緑さんの散歩みち
お話を聞いたあと、緑さんがよく散歩しているという道を歩いてみました。
1月下旬、例年より暖かいとはいえ、キンと冷えています。
車でなく徒歩だと、普段見えないものが見えるのがいいですね。木々の間から見える湖もいいものだな、とか。
また、めずらしいものを見つけました。
この季節にたんぽぽ…!?
最近暖かかったので、春が来たと勘違いしたのでしょうか?
うーん、地球温暖化…
後日、岩手県立美術館へ
アトリエにお邪魔した日とは打って変わって雨のある日、岩手県立美術館に赴きました。
緑さんのコレクション展を鑑賞するためです。タイトルは「無責任な泉」。
会場に到着した途端、目に飛び込んでくるたくさんのカタチ、カタチ、カタチ…!
空間が、ものすごく…生き生きしています!!
理由もなく、心が躍りました。頭でなにか考えるより先に、気分がとても上がったのです。
「彫刻作品を、音楽のように感じる」という意味が、なんとなくわかった気がしました。
ものすごいカタチの種類。シンプルなのに、こんなにたくさんカタチがあるなんて、びっくりしました。
確かに、タイトルのとおり、カタチの「泉」ですね。
岩手県立美術館の展示は、残念ながら終了してしまいましたが、今年7月にも盛岡の画廊(インプレクサス・アートギャラリー)で展覧会をするそうです。
こちらもぜひお楽しみに!
取材を終えて
緑さんの「好き」に対する素直な思い、そして行動に触れ、色々と複雑に考えている自分に気づきました。
好きなことに理由はないし、やりたいことをやったらいい、そう教わった気がします。
年を重ねるごとに、簡単なことやシンプルなことほど難しくなるように感じる今日この頃。
しかし、難しくしているのは他の誰でもない、自分自身。
頭がこんがらがったら、菅沼緑さんの作品に触れるといいかもしれないなと思いました。
ビタミンのような色合いも相まって、リフレッシュできそうです。
勉強の合間に聴く、音楽のように。
◼︎菅沼 緑(すがぬま ろく)プロフィール
1946年東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科彫刻科卒業。
2000年に岩手県花巻市東和町へ移住。主に木を中心とした素材で立体作品を制作、岩手や東京で作品を発表している。
また、彫刻作品制作のほか東和町土沢商店街で「まちてくギャラリー」の活動も行っている。
〈まちてくギャラリーHP〉
(土沢商店街各所でいつでも見ることのできる作品展示。定期的に作品が入れ替わる)
※展示会の情報なども、こちらで確認できます。