まきまき花巻体験したい陶芸の面白さを伝えたい!〜大迫町・早池峰焼〜
陶芸の面白さを伝えたい!〜大迫町・早池峰焼〜
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 私はおさない頃から、粘土遊びやどろんこ遊びが大好きな子どもでした。自分の手を動かして物を作ることの面白さをこの頃から知っていたように思います。

 大人になって初めて陶芸の世界に出会ったのは、20歳の頃。たまたま雑誌で見た、憧れの小説家が使っているコーヒーカップを見て、自分もこんなカップが欲しいなと思ったのです。それから、比較的住んでいた所に近かった栃木県の益子に足を運んだり、近所の陶芸教室に通ったりしました。もう10年以上前のことです。

 昨年の秋、岩手県花巻市に移住して半年以上の月日が流れました。一人暮らしをするうちに、「自分で使う食器を自分で作りたい」という感情が芽生え始めたのです。そんな時、大迫で陶芸工房を構える方がいらっしゃるということを友人から教えてもらい、行ってみることにしました。

 

 

 

 大迫町は、JR東北新幹線・新花巻駅から車で20分ほどのところにある、ぶどうやワイン、伝統芸能の神楽が有名な町です。雄大な早池峰山を望み、山々に守られるようにして昔ながらの家や商店が立ち並んでいます。

 山間の風景を縫うようにして走っていくと、美しい自然と今にも動物が現れそうな雰囲気の道が続いていきます。車の運転は移住して半年経ちましたが、埼玉県のまち場で車の無い生活をしていた私にはまだまだ緊張の連続です。地元の方にお話を聞くと、キツネやタヌキ、シカやクマはいて当然という感覚で、さすがだなと尊敬してしまいます。

 

 

 花巻市内でも有名なエーデルワインのワイナリーやぶどう畑を通り過ぎると、黒い大きな木に「早池峰焼」と書かれた看板が目に入ります。ここが今回の目的地です。花巻で伝統的に作られている陶器に、台焼、瀬山焼、鍛冶丁焼などがあります。

 早池峰焼は、陶芸家の星励忍さんが、25年ほど前に大迫で陶芸を始めた時に命名なさったそうです。

 

 岩手県大船渡市出身で元々はサラリーマンだった星さんは、45歳の頃、宮城県仙台市で陶芸の世界と出会い、その面白さにとりつかれたといいます。定年後に本気でやり始めたのでは間に合わないと確信し、知人の紹介で大迫町を訪れました。

 当時、陶芸を体験することは人々の暮らしの中では敷居が高くできなかった、と星さんは語ります。それならば、敷居が低く一般の方がいつでも体験できる工房があれば、やりたいというひとが来るのではないかと、陶芸をビジネスの視点から考えました。そういった点から、自然環境、交通の便が良い大迫町で陶芸をすることを決めたそうです。

 そして、47歳で大迫に工房を構え、初めの頃は町なかで陶芸作品を作っていました。

 のちに、作業スペースや窯の稼動などの問題が生じて山の方に引っ越しを検討。様々な苦労を経て、1997年に53歳で、現在の陶芸体験ができる施設と工房を開設します。

 

 今では旅行者の方の体験希望者を受け入れており、連続して通う陶芸教室も開いています。生徒さんは、盛岡や北上、遠野など県内の方が多いそうです。

 私が訪れた日にも、盛岡から3人陶芸教室の生徒さんがお弁当を持って来ていました。教室に通い始めて3年になるそうです。賑やかで楽しい女性たちでしたが、陶芸を始めると表情が一変して真剣になります。陶芸は穏やかなイメージですが、集中力と精神力がとても必要で、一息ついた時にどっと疲れが出るほどなのです。

 

 この日私が体験したのは、1回90分のろくろを使ったコースです。まずは粘土をろくろに乗せて、回しながら軸を作ります。腕を膝の内側に入れてしっかりと固定し、左手で支えながら右の手のひらで粘土の凹凸が無くなるまでならします。

▲先生の手つきは流れるようで美しい。

 

 簡単にやっているように見えますが、コツがつかめるまでは何度もグニャッとなってしまいます。星さんは何度も失敗していいから、そこから感覚を覚えていくんだよと教えてくださいました。

▲13年ぶりのろくろ。とても緊張しました。

▲左から、珈琲カップ、お茶碗、湯飲み。

 

 星さんが、作り続けている作品の中でも一際美しく引き寄せられるのは、「夢灯(ゆめあかり)」という名前のランプシェードです。手前の小さな小皿を上に乗せれば、香炉としても使うことができます。中に入れるのはライトではなく、ろうそくでもよいそうです。この「夢灯」、実は成形がとても難しく、美しい球体に仕上げることができるようになるには5年はかかるのだとか。

 

 その他にも、ハヤチネウスユキソウをあしらったカップや、可愛らしい剣山などの作品がありました。花器に水を入れてその中に剣山を入れて使うのですが、土から作り出した陶器は可憐な野花がとても自然に引き立ちます。

 

 

 工房の奥には、大きな窯が3つ並んでいます。窯を使って作品を焼くのは月に1度。1,250度くらいまでの高温で焼き上げるため、14時間は窯の温度に気を配ります。ほんの少しの温度変化で作品の色が変わってしまうため、細心の注意が必要です。

 

 早池峰焼は、星さんが大迫の町で灯した光のようだと思いました。趣味ではなく、仕事として陶芸を続けていくことは大変なことで、本当に好きでないと出来ないことです。シンプルに深く根を張るような星さんの生き方は、移住者の私にとっての憧れそのものです。

 星さんは、花巻近郊の陶芸家の集まり「銀河陶友会(旧花巻陶芸作家協会)」の会長でもあります。「花巻の陶芸家のつながりを作ることで、窯元めぐりのような観光をしてもらえたらいいね」と、星さんは話していました。とても素敵なことです。陶芸が、花巻全体の観光資源という大きな見え方になっていったら、多くの陶芸ファンを引き寄せる魅力になると思います。

 

 そして、実際に土に触れて早池峰焼作りを体感して思ったこと。それは、作品の全てに自身の人柄が現れるということです。初歩の成形段階でしたが、まるで我が子のような愛おしさが込み上げてきます。これはやってみて初めて分かる感覚です。

 

 心地よい疲れと空腹感の後、外の空気を吸いにいくと、大きな猫がノシノシ歩いてきます。自由に外に遊びに行っているので会えるのはラッキーなのだそうです。とても人なつこい男の子でした。現在は、飼い猫が4匹、野良猫が1匹。猫の駆け込み寺のようなものです、と星さん。居ついてくれた猫は、去勢手術をして自由にさせているそうです。動物が自然に寄ってくるのは、そこに住む星さんや奥さまが優しいからなんだろうな、とあらためてこの「早池峰焼 星工房」が好きになりました。

 

 大迫を訪れてみたら、美しい自然の中で想い想いの作品を作ってみませんか。

 

 

 

私が書きました
塩野 夕子

2018年9月、宮沢賢治が好きすぎて埼玉県から移住してきました。
まきまき花巻編集部と市民ライターの二足のわらじで活動しています。
現在は宮沢賢治記念館に勤めながら、大迫町の早池峰と賢治の展示館・2階にある「賢治文庫」も管理しています。アパートで猫とふたり暮らしです。