本年5月、3年ぶりの土沢アートクラフト開催。
そのニュースを聞きつけ、急遽夜行バスへと飛び乗り、盛岡に着くや釜石線へと乗り換え、早足で出向いた土沢商店街。
そこで出会った懐かしい人々、活気ある東和町民の方々、そして―
QRコードくん。
その背中にこう書かれていたのを、私は忘れてはいなかった。
「今年の東和棚田のんびりRunは、9月24日に開催予定!」
今年は棚田Runが帰ってくる!画面越しでなく、黄金色に輝くあの風景が目の前に―。
こうして浮き足立った私は、9月22日の深夜、気づけばまた東京駅から盛岡へと向かう高速バスに飛び乗っていた。
9月23日、早朝。盛岡から土沢駅へ向かう釜石線に乗り、東和温泉に向かうと、逞しい棚田Run運営スタッフの皆さんがもうそこに集まっていた。今日は、前日の事前準備だ。
「おかえり!」
「よく来たね、また夜行バス?」
東和の優しいみんなが、また私を家族のように受け入れてくれた。ここに来ると、実家に帰ったときのような安堵感が心の内に広がる。
ここから、二手に分かれて準備の始まりだ。
東和温泉に残ってエイド用の道具やランナーへのお土産を準備するメンバーと、外でライン引きを行うメンバーに分かれて、順序よく作業をこなしていく。
今回は101人もの方が参加するとのことで、手際よく準備を進める必要がある。
荷物をたくさん運んでいたら、気づけばもうお昼。夜行バスで来てほとんど何も食べていないから、お腹が空いたなあ。
ちょうどそう思ったときにやってきたのが、合鴨農法で丹精込めて育てられた、小田農園の新米おにぎりだ。
梅おにぎりと、なんと松茸ご飯まで!口に入れると、優しい甘さが広がってくる。
3年前も、こうやって小田家のおにぎりに元気をもらいながら、みんなで準備したっけ。
こうして元気よく、午後も準備再開。ちょっと雨が降ったけど、そんなものは何のその。
「みんなに東和を楽しんでほしい。」その一心で雨を吹き飛ばし、合計21.6kmものコースにライン引きと看板のくい打ちを行った。
夕方、最終打ち合わせをして解散。ここまでやったら、きっと明日も大丈夫なはず。
「東和の美しい風景、歴史、そして東和町民との触れ合いを、のんびり楽しんでほしい。」そんな思いから始まった東和棚田のんびりRunは、コロナの影響もあったけど、東和町民達の強い思いのもと、やっと3年ぶりの現地開催という形で明日を迎えようとしている。
明日が、最高の日になりますように。
そしていよいよ棚田Run当日。雨がパラパラと降る早朝だが、ランナー達が続々と集まって来る。スタッフ達も、エイドに東和のうんめえこびりを並べてスタンバイ。この日のために、地元の方々だけではなく、大学生のボランティアも駆けつけてくれた。
8時になると、お馴染みの螺貝の音でスタート。
ランナー達が百姓に扮し、一揆のごとく勢いよく駆け出した。
道を進めば、そこに広がるのは、宝石のように輝く稲穂の波。この美しい風景は、長年農家の皆さんが丁寧に田んぼを管理してきた、ここ東和でしかお目にかかれない。
しかし、棚田とだけあって、コースはアップダウンが激しく、ランナー達の体力を消耗していく。
「もう疲れた。」そう思ったときに現れるのが、東和のこびりたちだ。
糖分補給に2玉団子、水分補給に紫蘇ジュース、塩分補給に三五八漬け。バランスよく栄養補給をした後は、道の駅名物味噌ソフト、谷内の母ちゃん特製ミョウガの葉焼き、なんぶ平野農園のりんごジュースと、東和の名物が続く。最後は米粉クロワッサンと水出しコーヒーで締めという、東和フルコースだ。
これだけではない。
「あれ?こんなエイドあったっけ?」
道の途中で待っていてくれたのは、輝くばかりに水々しいトマトとスイカを持った地元のお母さん。ランナーだけでなく、スタッフにも是非食べてほしいとのことで、準備してくださったという。
これぞ、サプライズの特設自主エイド。
どこでも出来ることではない。東和町民の皆さんの優しさ、逞しさあってこその、棚田Runならではの名物だ。
これだけ食べれば、お腹いっぱい。道行く方々の応援や美しい風景にも勇気づけられて、ランナー達は各々のペースで東和の道を突き進む。
「あとちょっとですよ!頑張って!」
コースも終盤、ランナー達は最後の力を振り絞る。
そしてー。
「ナイスラン!」
生憎の雨ではあったけど、そんな雨は吹き飛ぶくらいの最高の晴れやかな笑顔が、そこにはあった。
今回の大会では、東和の風を感じながら気持ちよく走っていた中学生が、気づいたら第3位。そしてなんと、小学3年生も完走。
誰にも怪我なく無事に終えられたことが何より大事だが、それ以上の奇跡がたくさん生まれた。
完走後は東和温泉でひとっ風呂浴びて、道の駅前の愛吹文化祭で腹ごしらえ。盛岡からさんさ踊りが駆けつけ、神楽や鬼剣舞の披露もあった。
のんびりRunの大会閉幕後も、それぞれが思い思いの東和時間を楽しんだ。
雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、それぞれが出来ることを持ち寄って、一つの大会を創りあげる。
東和町って、大きな一つの家族みたい。
この大会が出来上がるまでの過程を目の当たりにして、改めてそう強く思った。
私も、その大きな家族の一員であり続けられますように。
んだんだ、東和の皆さんのおがげさんで、おらほもおもっしぇがっだ。ありがとがんす。
まだやるべし、まだ来るべし、東和町!