まきまき花巻見たい25歳の神楽師が舞う 大償神楽を受け継ぎ守る人々 ~神と逢う大迫人~
25歳の神楽師が舞う 大償神楽を受け継ぎ守る人々 ~神と逢う大迫人~
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早池峰山のふもと、花巻市大迫町内川目の神楽の館で202112月中旬、大償(おおつぐない)神楽の舞納めがあった。この地域で500年以上も大切に受け継がれてきた伝統の舞は、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。

この日の午後、大償神楽保存会の神楽衆が大償神社で年越祭を執り行った。昔から年越祭や元旦祭などの年末年始の行事には神楽が奉納され、訪れる観客達を魅了してきた。近年では、県内外のみならず海外からも多くの人々が神楽鑑賞に足を運ぶようになっていた。しかし、コロナ禍で2年続けて観客を入れない舞納めとなった。

 

神楽の館(花巻市大迫町内川目)

座敷の神棚は年越し&元旦モード

無観客の座敷で繰り広げられる演目 

古い民家を移築した神楽の館は、広くがらーんとして寒々しい。3年前までは開け広げた座敷に、観客がぎっしりと座って写真を撮ったり、大きな拍手をしたりして熱心に神楽を鑑賞していた。今年は板戸を閉めて仕切り、舞台と隣のひと間だけの空間。冷え切った静かな空気の中で、7演目の神楽が舞われた。演目それぞれには意味や物語が込められ、舞手の面や身につけた衣装、手に持つ道具などの動きに目が離せない。太鼓や笛、鉦(かね)が鳴り響き、次々と舞が繰り広げられた。


『鳥舞』『山神舞(やまのかみまい)』『権現舞』に出演した米澤直斗さん(25)は保存会の神楽衆の中では最年少。内川目に生まれ育ち、現在も神楽の館のすぐ目の前にある実家から、花巻市北湯口の企業に勤める社会人3年目の会社員だ。

米澤直斗さん

神楽を始めたきっかけは「生まれた時から神楽がすぐそこにある生活をしていたので、やるもんだと自分も思ってた」と何歳から始めたかも記憶にないほど。初舞台は小学校1年生7歳の時の『三番叟(さんばそう)』。小さい頃から大伯父の佐々木隆さん(90)の影響を受けて育った。

太鼓を鳴らす大伯父の佐々木隆さん 90歳で現役の神楽師

大償神楽保存会はメンバー約20人。全員揃っての練習は毎週水曜日夜8時ごろからだが、米澤さんはその他に土日も佐々木さんのマンツーマン指導を受ける。レパートリーは約25演目。「土日の半日、大伯父の家へ行ってその時やりたい演目を稽古しています。趣味は…ないですね~神楽しかしていません」と少し申し訳なさそうに笑う。

目に見えない何かに向かって舞う神楽

『鳥舞』は小学生のころから舞っていた。鳥は悪魔を祓うとされることから、神楽の始まりの舞いとして定番の演目。「普段着ることのない女着物を着るので体の使い方が違います。そこが面白いところですが、同時に難しさでもあります。内股にして足をハの字にし、足を開かないよう舞うんです」。長身で線が細い米澤さんの女着物姿や舞の動作は、色白細面の顔立ちも相まって優雅で美しい。

女着物姿で『鳥舞』を舞う米澤さん

それとは対極的なのが『山神舞』だ。「山神舞は神楽でも一番大事な演目なので『よし、やってやろう』という気持ちで舞います。始めた頃は体が宙に浮いているような感覚だったのですが、今は地に足がついたような、かみしめながら舞う余裕が出てきました。力を入れる時と入れない時の力(りき)配分が次第にわかってきたように思います」と米澤さんは頷く。
赤い面をつけた米澤さんが、太鼓と鉦(かね)のリズムで舞い始める瞬間、まるで体に神様が宿ったかのように全身に力がみなぎる。山の神は春、里に降りて農業の神様となり、秋には山へ戻って山を守る神様だそうだ。舞の途中、米をまくのは五穀豊穣を祈っているのだろうか。厳しい寒さで眠っている大迫の大地を揺り起こすような迫力。心を鎮めて神の化身を見つめていると、私たちの願いも一緒に祈ってくれているような気がする。

『山神舞』後半 面をはずし刀を振る米澤さん

後半、面をはずし、太刀を振り回す激しい動きになる。刀で悪魔を祓う意味があるそうで、額に汗が流れる表情は真剣だ。跳んだりはねたり回ったり、クライマックスに向かって祈りが高められていく。約40分間、肩で息をするほどの勇壮な舞を演じ終わると、人間の姿に戻った米澤さんは穏やかな礼儀正しい青年だ。伝統の神楽を受け継ぐ姿が、頼もしくまぶしい。

舞納めの最後『権現舞』 阿部輝雄会長と米澤さん

「今日の舞は観客がいないので純粋に神事として神様に向けて奉納させていただきました。本来的にはそういう気持ちが正しいのかな…いろんな神様、何というのかわからない目に見えないエネルギー体に向けて踊っているような感じ」と宙を仰ぐ。元々、早池峰山の修験山伏が行った祈祷の舞が神楽となったといわれている所以が脈々と伝えられている。

神楽一筋「きちんと生きなきゃ」

悩みも多い。新型コロナウイルスの影響で公演の回数が減り、神楽衆全員が揃って練習できない日々が続いた。神楽の館は公共施設のため使用禁止となり、緊急事態宣言解除まで神社の境内で練習することもあった。神楽衆みんなが個人個人でも練習を繰り返し、自分の中でかみしめながら舞を磨いてきた。
また、これから先、後継者不足が大きな課題だと米澤さんはため息混じりに話す。「今、小さい子どもたちに神楽を教えています。そのためにも自分自身、神楽師としてもっと質を高めていきたい」と意欲的だ。

仕事と神楽の両立を目指しながら、神楽一筋の毎日を過ごす米澤さん。最後に、神楽をやっていてよかったと思うことを聞いた。
「神楽は自分の身が引き締まる。常に、ちゃんと生きなきゃ、という気持ちにつながっています」と背筋を伸ばす。

神の世界へいざなう神楽。私たちは神楽を通して「神と逢う」ことができるのではないだろうか。見えない力に導かれながら「神の領域」に足を踏み入れているような心地になる。そうして「きちんと生きなきゃ」と力をもらうのだ。
毎月第2日曜は「神楽の日」。コロナ禍で開催中止が続いていたが2022年1月、久しぶりに公演予定だ。大迫町にある3つの神楽保存会のうち、今回は大償神楽が出演する。さあ、再び観客の前で舞う時がきた。
※注:「神楽の日」鑑賞は事前予約制で、1月公演はすでに締め切っています。

私が書きました
大和田ゆきこ

花巻市大迫町在住。
人、自然、農業、伝統文化や歴史に興味があります。