まきまき花巻体験したい花巻の方言で宮沢賢治作品を読む〜ざしきぼっこの会〜
花巻の方言で宮沢賢治作品を読む〜ざしきぼっこの会〜
67 まき
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(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

宮沢賢治作品の中でも一際光を放っている、「永訣の朝」の一節です。

 

この不思議な響きが、岩手・花巻の独特の方言だと知ってから、私はどうしても直接聞いてみたくなりました。

賢治さんの一番の理解者である妹「トシ子さん」が、亡くなる直前に話した言葉。それを花巻で生まれ育った人の口から聞くことができたら、どんなに感動するだろうかと思いを巡らせていたのです。

 

 

 

花巻市民の力で賢治作品を読み解く

 

そんな賢治作品を、宮沢賢治生誕の地である「花巻」で朗読をして語り継いでいる方たちがいます。

「ざしきぼっこの会」のみなさんです。

ざしきぼっこの会は、2014年にスタートしました。2013年は宮沢賢治没後80年という節目の年。その頃は、宮沢賢治記念館で講座やセミナー、コンサートなどが行われるなど市を挙げて改めて賢治さんの魅力を伝える催しが行われました。

花巻市民の力で、賢治さんの人物や作品について学びを深めていこうという趣旨で
 「花巻の方言で賢治作品を朗読する会」の活動がスタートしました。

発足時から現在に至るまで、10名ほどのメンバーが在籍しており、毎月第3水曜日に花巻市上町商店街の賢治の広場で「賢治カフェ(ミニ講義と朗読)」を開催しています。

 

 

▲小原さんによる、賢治作品のミニ講座が聴くことができます。

▲コロナウイルス対策で透明カーテンを用いての朗読です。

 

メンバーもその時々で変わっていきましたが、始まった当初から会の舵取りをしてくださっているのが、リーダーの小原さんです。小原さんは、1990年の宮沢賢治学会イーハトーブセンター設立からの会員であり、宮沢賢治・花巻市民の会には2010年から参加しています。

 

現在活動している主な朗読のメンバーをご紹介します。

出身は必ずしも花巻ではありません。かくいう私も、2018年の秋に埼玉県から移住し、賢治さんの作品を読み深めたくて仲間に入れていただきました。メンバーのみなさんはそれぞれ表現の持ち味を持っていて、集まることで一段と深みのある朗読を作り上げています。

ただ読むというだけではなく“人に伝わる読み方”を模索している会です。

 

▲力強くしっかりしたお声が印象的な永田さん

▲柔らかくて可愛らしいお声の熊谷さん

▲個性的なキャラクターが得意な佐藤さん

▲少年からお母さんまで、幅広い表現ができる中村さん

▲方言の朗読といったらこの人!というくらい一目置かれている、伊藤さん

 

 

 

花巻の方言を生かした朗読

 

 少女時代から、利発的だった伊藤さんは弁論大会や学校の代表挨拶なども多く引き受けていました。その頃から“人を引きつける”という感覚を体感していたといいます。幼稚園の先生として働いていた頃、子どもたちに読み聞かせていたことも、経験として色濃く残りました。物語に聞き入り、素直に喜び、感動して涙を流す姿。何物にも得難い感動を覚えたといいます。

 伊藤さんは15年ほど前(2005年ごろ)に、ざしきぼっこの会が発足する前、広報でメンバーを募集していたことをきっかけに朗読の世界に入ります。ほどなく、ざしきぼっこの会ができ、入会。メンバーになりました。

 

 

 ひと一倍練習熱心な伊藤さんは、いつしか
「自分が知る花巻の方言を後世に伝えていくにはどうしたらいいか」
と考えるようになりました。

 

 数年前のある日、県外の人も多く集まるイベントで、賢治作品の「植物医師」を朗読する機会がありました。

 この作品は、花巻の農家のひとたちが、凶作の末に「植物医師」と名乗る男に肥料相談をしていく物語なのですが、セリフの大部分は花巻の方言です。ほとんどが地元花巻のメンバーだけあって、独特の花巻らしさが見事に表現されていました。多くの観客から好評の声が届きました。

 そしてそこには、東京で賢治作品の劇や朗読の活動を行う「ものがたりグループ☆ポランの会」のメンバーの方々もいらしていました。ポランの会のみなさんは、これまで岩手県内でも温泉施設やカフェ、宮沢賢治イーハトーブ館で様々な講演を行なってきました。

ものがたりグループ☆ポランの会ホームページ

 ポランの会代表の彩木さん(前列中央)は、ざしきぼっこの会の花巻の方言による朗読を聞き、
「ぜひ花巻の方言で読む賢治作品を指導してほしいです。」
と申し出ました。そこから、縁あって年に数回花巻に足を運び、彩木さんや他のメンバーの方とともに伊藤さんの指導を受けていたのだといいます。

 東京の方たちが、熱心に賢治作品の表現に一生懸命になっていることは、花巻で活動する伊藤さんの意識にも影響を与えました。

 

 

後世に伝えたい想い

 

 伊藤さんは、2020年8月、宮沢賢治作品を朗読したCD

「まことの愛そしてさいはひ・宮沢賢治方言作品朗読集」を製作されました。

 

内容は2部構成で

1部「まことの愛、そしてさいはひ」

・永訣の朝

・松の針

・無声慟哭

・噴火湾(ノクターン)

・薤露青

・虔十公園林

2部「異次元感応」

・青森晩歌 三

・風林

・早池峰山巓

・祭の晩

全編70分以上にも及ぶ、心象スケッチと童話から成るCDです。

 

印象に残ったのは、パッケージデザインの月。収録している「祭の晩」に、“東の黒い山から 大きな十八夜の月が静かに登って来たのです”という文章があるのですが、それをイメージしたとお聞きしました。美しい、ぴったりのデザイン。CDをじっくり聴いてみましたが、聴けば聴くほど深みが伝わってくる作品です。

まず伊藤さんのお声です。
地文も聴きやすく心地よいことはもちろん、台詞もそのキャラクターに合った雰囲気が出ていて、尚且つ自然な花巻弁!
そして何より、心がトクンッとふるえるような響きの読み方が印象的でした。
伊藤さんが賢治さんから受け取ったメッセージをそのまま形にしてくださったような

 

どうしてこのCDを作ろうと思ったのか聞いてみました。

「ポランの会の方たちが、とても熱心に花巻の方言を習いに来ている姿を見て思ったんです。
県外の方がこんなに一生懸命表現しようとしているのに、花巻で生まれ育った自分はなんて呑気なんだろう、と。

練習をどんなに頑張っても、生まれ育った環境で聞いて話してきた言葉は根強いものです。
私自身も、東京弁をいくら話そうと思っても、やはり不自然になってしまう。それはしょうがないことです。

いつか花巻の方言を話す人はいなくなってしまうでしょう。私がいつまでも語り続けられればと思うけれど、そうはいかない。だから、自分の朗読を形にすることにしたんです。」

 

収録されている2編の童話に登場する「虔十」と「山男」。
2人に共通しているのは、正直で人がよくて、少し不器用なところでしょうか。どこか賢治さんに似ています。“正直者が損をする”なんて言われる世の中ですが、虔十や山男のような人間が私はとても愛おしく、信頼できるなぁと思います。伊藤さんの朗読からはそんなキャラクターの良さが本当によく伝わってきます。

私も実際に読んでみて分かったのですが、朗読とは本当に奥が深く、簡単にはできません。
今、私は伊藤さんに直接朗読の指導を受けています。まだまだ素人で、改善するべきことが沢山あるのですが、練習をすればするほど少しずつ変わっていっていることは確かです。

目標は、

「聞いてくださる方が、目の前にありありと情景を思い浮かべられたり、

 登場人物の想い、強いては作者の想いを感じることができる朗読」

 

これが “人に伝わる朗読” なのだと感じています。

 

 

 

【伊藤さんのCDは、花巻市内では以下の場所で販売されています】
○賢治の広場(花巻市上町3-4)
○宮沢賢治イーハトーブ館(花巻市高松第1地割1番地1)

 

 

 

 

私が書きました
塩野 夕子

2018年10月、埼玉から移住してきました。花巻市地域おこし協力隊3年生です。
まきまき花巻の編集部と市民ライターを二足のわらじで活動しています。3度のメシと同じくらい宮沢賢治さんが大好きです。特技はイラスト、消しゴムはんこ。リトルプレス「たまごパン」もかたつむりペースで発行しています。