まきまき花巻見たい成島と和紙と生活と、
成島と和紙と生活と、
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東和の方々に成島和紙の話をすると、幼稚園や小学校の卒業証書を成島の和紙を使って自分たちで作った、懐かしい、とよく聞く。子どものころに体験した思い出が今も印象に残っているということは、それほど東和の多くの人に馴染みのあるものなのである。

明治時代、東和町成島においては、和紙生産が生活の基盤であった。
人によっては自宅に和紙の原料である楮(コウゾ)を蒸すための釜があったり、紙漉き場があったりした。また、成島には共同作業場もあり、地域の人で役割分担しながら材料の加工をしていた。売って歩く営業も合わせて120人ほどが和紙生産に関わっていたそう。

▲成島和紙工芸館

成島の一角、熊野神社・毘沙門堂の麓に成島和紙工芸館がある。
ここで、青木一則さんが地域の2人と共に和紙の生産を行っている。

【成島和紙の生産工程】

そもそも、紙漉き(和紙の製作)には2種類の手法がある。

一つは「機械漉き」と呼ばれる機械で行う紙漉きの手法で、全国各地の和紙生産地で導入されている。一方、成島和紙で行われている紙漉きの手法は「手漉き」と呼ばれ、全て手作業で行う。

▲和紙の製作工程、材料の調達から製品として仕上げるまで15以上の工程がある。

上の写真のように、和紙製作には多くの工程があり、これらを全て手作業で行っている。さらに、質の良い和紙づくりには水温が低温であることが条件なので、紙漉きは1月~3月の寒い時期に行うのだから根気のいる作業である。

さらに、注文に合わせて和紙の厚さを調整するのだが、決まった手法はなく、全て今まで培った感覚で漉き上げるそう。まさに職人技である。

▲紙を漉く前、材料を混ぜている。

【成島和紙の原料】

生産過程で示したように成島和紙の原料となるのが「楮(コウゾ)」である。

日本で使われている和紙の主な原料は楮、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)の3つがあるのだが、成島和紙が主に楮を使っているのには理由がある。

▲楮を蒸して皮をはぎ取りやすくする。

三椏や雁皮は楮に比べて成長が遅く、安定的な確保が難しい。一方で楮は毎年収穫でき、増やしやすいという利点がある。成島和紙では楮を1か所で栽培していたが、カモシカに食べられた経験もあり、現在は10か所ほどに分散させて栽培している。

また、同じ楮でも場所や気象条件によって繊維の性質が変わってくるという。素材一つを取ってもさまざまな特徴があって面白い。

▲楮を干して乾燥させている様子

和紙を作るためには楮だけでは成り立たない。

楮の繊維の偏りを防ぎ均等にするため「ネリ」と呼ばれる粘度のある液体を混ぜる必要がある。ほとんどの漉き手がネリにトロロアオイと呼ばれる植物を利用するが、成島和紙ではその原料に「ノリウツギ」という低木を利用している。ネリにノリウツギを利用する和紙生産者は10%にも満たない。

トロロアオイは毎年計画的に作れるが、低木であるノリウツギは手首くらいの太さになるのに30年かかるため、安定的な確保が難しい。「1代30年と考えると、同じノリウツギは1代しか使えない」という一則さんの言葉が印象的だ。

このノリウツギの生息地は人づてで教えてもらうことが多いのだそう。人と人との関係で和紙生産が成り立っているのだろう。

【成島和紙の用途】

成島和紙は熊野神社や毘沙門堂における写経用紙や御礼紙に使われ、19世紀以降は花巻城の下級武士の間で内職として盛んになった花巻傘の材料紙にも数多く使われたという。
現在も全国各地に取引先があるが、岩手においては神楽のお面の芯材としても利用されている。20年以上使っていても千切れることがないほど丈夫なのだそう。素材にこだわり、手漉きで一つ一つ丁寧に作っている成島和紙だからこそである。

▲厚さが異なる和紙や色紙など様々な和紙を販売している。実際にここで和紙を見て購入する方も多い。

▲封筒や名刺、はがきなども販売している。

そもそも全国的に和紙生産者は年々減少しており、その中でも手漉きを行っている職人はごくわずかである。「電子化によって洋紙さえも使わなくなってきている時代。それでも注文があれば作り続ける」と一則氏は言う。

成島では和紙が生活の基盤であった。そして成島和紙は手間がかけられ、素材も良く、丈夫で質が良い。これらのことを考えると、全国的に手漉き和紙職人が減少している中でも、成島和紙の技術や伝統が途絶えることのないように、残ってほしいという思いが強くなるのである。

成島和紙工芸館では紙漉き体験を行っている。色とりどりに染められた楮を使って模様を描いたり、指で絵や文字を施すこともできる。ぜひ成島の和紙を自分の手で体感してほしい。

▲紙漉き体験の様子、文字や絵を描いている。

私が書きました
今野陽介

花巻市地域おこし協力隊。
花巻の工芸品、民芸品が好き。
2019年10月から花巻に住んでます。